第64話

??? 花屋敷の地下


彼は久しぶりの波動に目を覚ました。

“誰かが会いに来てくれるのはいつ振りだろう……”彼は思った。


彼の体は特殊な進化を遂げていた。人でも花でもない姿。

暗闇の中で生きるために最適な進化。


彼の目は視ることを放棄していた。視力はない。その代わりに、額から角を伸ばした。彼が昔飼っていたようなカブトムシのように。

角からあらゆる音が彼の脳に入り込んでくる。音を使って観る技術、彼が適応した新たな世界。今も部屋の中のあらゆるものを音で視ている。


日の光をもう何年も彼は見ていなかった。閉じ込められた部屋から出られなかったからだ。しかし、彼はあらゆることを知っていた。植物がすべてを教えてくれる。花が動物に取りついたとき、彼は動物たちの視界を視ていた。


それもこれも、彼がつながっている花の為せる業だった。

この花を生み出したおおもとの花。

始まりの樹。


それが彼の部屋の中央に位置していた。

彼はかたわらの根に触れる。自分のからだよりも太く大きい根っこだ。それに触れている間、彼にはすべての花とつながることができた。


彼が眠るのは花の意識とアクセスしている間だけ。

新しく得た波動に彼は、何十年ぶりにワクワクしていた。


彼は試しに新しい波動に自分の位置を発信してみた。

“さぁこれからどうなるだろうか……”彼は思った。


ただ普通にここまで来られても面白くない。彼はしばらく考えた。

そうだ、ここまでに来るハードルを大きくしよう。

友達になるには、なにか困難があると一気に仲良くなれる。


彼は花のネットワークに命じた。

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