第63話

ルーク 花屋敷前


「花屋敷というよりは、ジャングルって感じね」エキドナは言った。

「なにかおいしそうなにおいがする。……これは『バナナ』じゃないかしら……?」サスケは言った。

「サスケまたそんな食い意地はって。お前あんな目にあってまだ凝りていないのか……。バナナがあったら是非おれにも教えてくれ」ルークは言った。

「ルークくんも食べたいのね……」エキドナは言った。


次の日の朝、ルーク一行は花屋敷と呼ばれる場所に来ていた。一行は花屋敷の無秩序っぷりに辟易していた。エキドナの言う通り、まさにジャングルだった。

村長が言っていた小屋だった場所はどこだかもうわからない。

動植物にはすべて花がとりつき、一種のカオスが形成されていた。

“これはもうダンジョンなんじゃないのか……?”ルークは思った。


目の前に花を体中に付けた狼が現れた。それを巨大な花ダンゴムシが捕食する。

3人ともその弱肉強食のお手本みたいな光景を白い目で見ていた。

“絶対に入りたくない、でも行かなきゃならないよなぁ”ルークは思った。

そんなことを思うルークの肩をサスケが叩いた。ルークは振り向く。

「ルークわたし待ってるね。バナナ見つけたら教えて」サスケは言った。

言葉と同時にサスケはルークの影に入ろうとした。

“こいつ逃げる気だな”ルークは思った。

そうはさせてなるものかと、ルークが腕を伸ばしたときにはすでに遅かった。サスケは影に飛び込むところだった。

しかし、サスケは影に入ることができなかった。

「え?」サスケは言った。

ルークは必死に影に潜ろうとしているサスケを捕獲する。サスケは必死に影に触ったり、影の上を飛び跳ねたりしていた。

「お前何してんだ」ルークは言った。

ジェットコースターに乗りたいと駄々をこねる子どもに言うような声音だった。

サスケも自分の恥ずかしさに気付いた。ほそぼそと声をだす。

「なんか、影に入れなくなった……」サスケは言った。

そこで、エキドナは気づく。

「そういえばサスケちゃん、花が取りついた村人の影には入れないって言ってたわね。あれじゃない?」エキドナは言った。

「もしかしてわたし『影渡り』を失っている……?」サスケは言った。

“なんだって?影に入れないサスケなんてただの……”

「ただのお荷物じゃないか」ルークは言った。

「そうね、『影渡り』ができないサスケちゃんなんて、泳げない魚みたいなものよね。一言でいうと無能」エキドナは言った。


無能。お荷物。その言葉はサスケの心をえぐった。

忍者の血を持つサスケにとって、無能とは魂に関わる人ことだった。

サスケは叫んだ。

「わたしは無能じゃない!」サスケは言った。

サスケは目の前にいた巨大なダンゴムシを一刀のもとに切り落とした。

「……あれ花が再生しないわね?サスケちゃんなにしたの」エキドナは言った。


ルークも言われて気づく。花に取りつかれた生物なのに、再生しない。試しにルークも光の剣で切ってみたが、こちらはすぐに再生した。

「サスケちゃんの刀、なにか属性が付与されているわね……。影か闇か……。ちょっとわからないわね。ルークくん、火炎刀でダンゴムシ切ってみて」エキドナはいった。


ルークは言われた通りに火炎刀でダンゴムシを切り裂く。ダンゴムシの傷口は燃え続けた。こちらも花は再生しない。どうやら属性付与であれば花に効くらしい。ということは。

「光属性以外の属性が有効ってことですね」ルークは言った。

「え?じゃあ攻撃のほとんどが光属性の天使さまは無能ってことですか?」サスケは言った。サスケはここぞとばかりに前に出る。

天使であるエキドナに意匠返ししているのかもしれないが、人間が小さい。ルークは思った。

サスケのあおりをエキドナはうまく流した。

「そうね、わたしはこの場合無能なようね。だからサスケちゃん前衛は頼むわね」エキドナは言った。


「うげ」サスケは言った。

ルークはうなずいた。“言い合いではエキドナさんに軍配があがるな”ルークは思った。



ルークたちは道なき道を進んでいた。

右を見てもジャングル、左を見てもジャングルだった。

ただサスケはこういう環境に慣れていた。山勘が働くのかもしれないし、もともと獣に近いのかもしれない。サスケのナビゲーションは優秀だった。

「たぶんここは右から言ったほうが良さげかな」サスケは言った。

ルークは右側の道を切り開く。文字通り刀で切って開いていた。樹を切断したところですぐに再生して埋まってしまうため、最小限の通路は火炎剣で作る。

花をまとった動物や虫はサスケが影属性の短剣で急所を穿った。再生されたら厄介だし、放置するのも目障りなので一匹ずつ息の根を止めていく。

サスケはまた一匹の巨大なムカデを仕留めた。ムカデが動かなくなるのを確認した後、最後尾を振り返る。

「ねぇエキドナさん、あなた全く仕事していないように見えるんですけど……」サスケはいった。

「そうね、わたしは無能だからしょうがないわね。サスケちゃんありがとう」エキドナはいった。

エキドナの興味は人間だけだった。花動物や花昆虫にたいしては驚くほど興味を示さなかった。ただぼんやりと物思いにふけながら、しんがりを務めている。

ルークは、エキドナがあらゆるパターンの戦闘パターンを考えていることがわかっていた。サスケの話し相手を務めながらも、その頭脳はチームを勝たせるために使われている。ルークは喜んで火炎剣を振るった。


しばらく進むと、サスケが違和感を訴えた。

「ねぇ、何か呼ばれている気がするんだけど。何かきこえない?」サスケは言った。

ルークは耳を澄ます。ルークには何も聞こえなかった。聞こえるのは生物たちの立てる雑多な音だけ。

ルークはエキドナに目をやる。エキドナも首をかしげていた。エキドナが応える。

「なにも聞こえないわね……」エキドナは言った。

「え?こんなにはっきり聞こえるのに……?」サスケは言った。

「おそらく花が関係しているんじゃないか?」ルークは言った。

サスケの舌には花が宿っている、“何かしらの方法で花同士が連絡を取っているのかもしれない“ルークは思った。

「そうかもしれないわね……。ちなみに花はなんて言っているの?」エキドナは言った。

サスケは目を閉じた。サスケは音の解読に集中する。

「……何を言っているのかはわかんない。でも、なにか優しい感じがする。不思議な感覚……。向こうがわたしを呼んでいるのは確か」サスケは言った。

「どうしますかリーダー?」エキドナは言った。

この場合リーダーというのはルークのことだ。

ルークはうなずく。これはリーダーが決断する場面だ。

「音の方へ行ってみよう、何かわかるかもしれない。ただ、ヤバくなったら道を引き返す。エキドナさん予備のため、このあたりにチビエキドナを置いておいてください」ルークは言った。

ルークは勇者の剣から光の剣を生み出した。それを地面に刺す。

“これは簡易結界だ。チビエキドナ一人くらいなら守れるはずだ。何かあったときのためのバックアップとしてはこれでいいだろう……”ルークは言った。


幼いエキドナが光の護封剣を掴んだ。簡易結界が下りて、チビエキドナを包む。

「良し、これでいい。じゃあ行こうか」ルークは言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る