第65話

ルーク ジャングルの中




「サスケほんとにこっちであっているのか?」ルークは言った。

「……うん。合っているはず、なにか信号が変なの。森全体がとても騒がしい感じ」サスケは言った。

「そうか。じゃあ問題はないな」ルークは言った。


ルークの目の前には、泉が広がっていた。

森の中に現れた泉。サスケの感じた信号はどうやらこの泉に案内したかったらしい。

“この花屋敷広すぎないか……?村長の話では離れの小屋だと思ったが。つまり、小屋にいる花がここまで領域を拡大しているってことか……。この花は何が狙い何だろう”ルークは思った。

考え事をするルークの横に、エキドナがやってきた。

「ねぇリーダーそんな深刻な顔をするのは勝手だけれど、この目の前の泉をどうやってわたるのかしら?花の狙いとか今はどうでもいいんじゃない」エキドナは言った。


エキドナに思考を読まれてルークは恥ずかしくなる。

今のエキドナの助言はこういうことだ。“今目の前の問題に対処しろ、一度決めたことをうじうじ蒸し返すな”ルークは思った。

ルークは深呼吸をして、ほほを叩く。


「よし泳ごう」ルークは言った。

「賛成!」サスケは言った。

「え?」エキドナは言った。エキドナは本気で戸惑った顔をしていた。

ルークがエキドナの顔を見ると、エキドナはルークに聞き返した。

「ルークくん、今なんて言った?この泉をどうわたるって?」エキドナは言った。

ルークは気を取り直してもう一度言う。

「泳ごう」ルークは言った。

「賛成!」サスケはいった。

「まって!私が悪かったから待って」エキドナは言った。

エキドナが額に手を添えた。

「エキドナさん……大丈夫ですか?頭が痛いんですか……」ルークは言った。

「大丈夫と聞き返したいのはコチラの方よ。ルークくんいい?ここは敵地のど真ん中よ。泉の中に魔物がいるかもしれない。われわれはかすり傷を受けただけでも花に感染する恐れがある。お分かりですか?」エキドナは言った。

「分かります」ルークは言った。

ルークは力強くうなずいた。

エキドナの顔が明るくなる。

「それではルークくん再び質問です。この泉をどうやってわたりますか?」エキドナは言った。

「泳ぎます」ルークは言った。力強い言葉だった。自分を信じて疑うことのない少年の瞳。

それを見て、エキドナの堪忍袋が破裂した。

「なんでやねん!」エキドナは言った。

渾身のツッコミだった。

ルークはエキドナに感心した。

“最近エキドナさんのツッコミのキレが増している。これも天使化が原因か……?”ルークは思った。

エキドナのツッコミは続いた。

「どうしてわざわざ危険なやり方を選ぶの!われわれは陸上の生き物、水の魔物に水の戦闘で勝てるわけがないじゃない。なにを考えているの……」エキドナは言った。


ルークはそこで合点がいった。

「あぁそうか、エキドナさんは知らないんですね。サスケと僕は水中戦闘とっても強いんですよ。水を得た魚って感じです。そのまんまですけど。あ!ちょうどいいほらサスケを見てください」ルークは言った。

言われたエキドナはサスケを見た。

サスケは水の中に飛び込んでいた。それに合わせてワニ型の魔物3匹がサスケに襲い掛かった。サスケは水中で綺麗に体をひねるとあっという間に3匹を仕留めた。

サスケはルークを呼ぶ。

「ルーク!早くおいで、ここの水とってもいい感じ」サスケは言った。

ルークは手を振って返事をする。

「おーサスケ今行く!」ルークは言った。

そしてエキドナに振り返りにっこり笑う。

「サスケの昔のあだ名が『アメンボ』なんです。泳ぎがとてもうまかったから。僕もサスケと遊んでいるうちに同じくらい強くなってしまったんです。おもしろいですよね。じゃあ僕行くんで、エキドナさんは空から援護お願いします。たぶん援護不要ですけど、念のため」ルークは言った。

そして、泉に飛び込んだ。泉まではだいぶ距離がある飛び込みだったが、着水時にまったく水が跳ねなかった。

思わずエキドナは拍手した。

「人間って面白すぎる……」エキドナは言った。


そうしてエキドナも飛び立った。


“ルークが言った通りだ“エキドナは思った。

エキドナは眼下で広げられる戦闘を見る。

理屈は全く分からないが、水中での戦闘の方が二人は強かった。

そしてもう一つわかったことがある。水中の中だと花は再生しないという事だった。


つまり水中で魚を殺せば、花の影響を受けないという事だった。

“これはいい発見ね、花がなぜ光の属性付与攻撃に耐性を持つのか全く分からないけど、水中ならわたしの光属性も通じる”エキドナは思った。


その証拠に、水の中に沈めれば光属性の矢も通じた。

エキドナは勝ちパターンを編み出した。

チビエキドナを餌に虫を呼び寄せ、泉の上空に来たらさらにチビエキドナを増やして相手を水に沈める。その状態で射貫(いぬけ)けば敵を倒せる。

近くで見ていたルークとサスケはそのあくどさに震え上がったが、敵を効率よく倒せるなら問題はなかった。

エキドナは敵を流れ作業のように片づけていく。


エキドナが絶好調だったように、ルークたちも絶好調だった。

サスケは人魚のように敵を仕留めていく。敵の視界を盗めるサスケにとって、水中での視野の悪さは問題にならなかった。むしろ水中だと自分の感覚が広がったようになる。

サスケはにやりと笑う。

後ろから仕掛けてきたワニをかわすと、その目に短刀を突き立てた。

派手に血が出るが、花は咲かない。影属性を解除しても花が咲かないことは確認済みだった。そして近くで戦っているルークの視界を盗み見る。


サスケは一つ誰にも言い出せないことがあった。ルークのことだ。

ルークの右目がブギーマンとの戦闘を経てから盗み見れなくなっていることだ。

理由はわからない。ルークの視界を盗んでも見えるのは左目からの視界だけ。


サスケは気になってルークの右目を観察していた。しかし、外見上なんの変化もなかった。いつものルークの優しい瞳だった。

サスケは以前ルークにさりげなく目の調子を尋ねてみたことがあった。

“右目?特に問題はないよ、たしかにあの”カニ雑炊事件“のときにちょっと右目に違和感があったんだけど、それもまぁ普通に直ったかな”ルークは言った。

サスケは“カニ雑炊事件”のことを蒸し返されるのは嫌だったので、その場は逃げた。その話題にもそれ以来触れていなかった。


ただ、こうやってルークの視界を盗み見るたびに思い出してしまう。

“取り返しのつかない何かが起きているのかもしれない”サスケは思った。

その不安から逃れるように、さらに3匹ワニを仕留めた。

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