第60話

ルーク 花屋敷へ


ルークは話を聞き終えた後動けなかった。

色々と考え込んでしまったのだ。村長の朴訥とした語りが、ルークを大きなものに引き込んだようだった。


村長は話し終えると、咳ばらいをした。ルークは思考を元にもどした。

「つらい話聞かせていただいてありがとうございます」ルークは言った。

“この村に立ち寄ってよかった……”ルークは思った。


「僕一人で決められることはないので、仲間と相談させてください」ルークは言った。

村長は気を悪くした様子もなく頭を下げる。

「聞いてくださっただけでも……うれしいです。ありがとうございます」村長は言った。

“この願いにこたえられなくて何が勇者だ”ルークは思った。

ルークは仲間と相談するとは言ったが、この依頼を受ける気でいた。

“この村を助けたい”それがルークの願いだった。


ルークは村長の家を後にした。

帰りがけエキドナを担ごうとしたときに違和感に気付いた。

ルークは違和感を無視して何事もなかったかのように取り繕った、エキドナを担ぐと外へ出る。

ルークは帰りがけに振り返って村長に告げる。

「今日はもう遅いので依頼の返事は明日の朝答えます」ルークは言った。

「ありがとうございます」村長は言った。

村長は深々とルークに頭を下げた。

“勇者の責任は重いな”ルークは思った。

この期待にこたえなければいけないかと思うと、ルークは改めて『勇者』に敬意を払った。ルークは強くこぶしを握り締めた。背中のエキドナに話しかける。


「……エキドナさん。起きているんでしょう」ルークは言った。

ルークがさっき感じた違和感はこれだった。エキドナは寝たふりをしていた。ルークにはすぐに分かった。表情がにやけていたからだ。“もっと表情を隠してくれ……。こんな人が元魔王の側近だと思うとやりきれない”ルークは思った。

ただしルークやサスケに感化されてエキドナさんがアホキャラになった可能性もある。ルークはエキドナアホ化問題を棚上げにした。

エキドナは身をよじる。

「…えぇ。起きてるわ。背中を降りるわね、ここまで運んでくれてありがとう」エキドナは言った。

エキドナはルークの背中から降りる。


エキドナは伸びをする。エキドナの背中にたたまれていた天使の羽も大きく広がる。エキドナは羽をなんとかコントロールできるようになってきたようだった。

二人で村の外へとでる。あまり村の中ではできない話をしようとしていた。

ルークは話を切り出した。

「エキドナさん、この依頼受けてもいいですか?」ルークは言った。

「わたしはなんでもいいわ。このパーティーのリーダーはあなたでしょう。わたしはあなたの決定にしたがうだけ。きっとサスケちゃんもそうだと思うけど」エキドナは言った。

「わかっています。でもこの確認ってきっと大事なことなんです。一人で決めないってことが……。うまくは言えないんですけど」ルークは言った。

“あぁこれが自分にとって正しい勇者の形かもしれない……”ルークは思った。

自分の言葉に自分が気づかされることがある。

“僕はカイザー様のようにカリスマがあるわけじゃない。平凡な僕は『率いる』タイプのリーダーじゃないんだ。きっと……”ルークは思った。

そこまでわかったところでエキドナに提案する。

「エキドナさん、チームの指示をあなたに託していいですか?」ルークはいった。

「……いいの?ルークくんがやる予定じゃなかったの。……あなたが勇者だから」エキドナはいった。

「……若干とげがある言い方ですね……。でもいいんです。エキドナさんの方が全体を俯瞰して見られるし、経験値も多い。僕らのチームにとってそれが最善だと僕は思いました」ルークは言った。

エキドナは笑う。

“仲間のためなら自分を曲げられるのが人間の本当に面白いところ……。この短時間でルークくんの中で何があったのかしら”エキドナは思った。

それはエキドナにとって幸福な時間でもあった。人間についての面白い考察が得られること、それがエキドナの生きがい。人知れず、エキドナの中にも新しい何かが生まれようとしていた。ただしそれが芽吹くのはもっと先のこと。


「いいわ。わたしが指示を出しましょう。ただし、それはそれが私の役割だから。あくまでリーダーはあなたよ。ルークくん」エキドナは言った。

「うん。わかってるつもりです」ルークは言った。


二人は笑いあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る