第58話

ルーク フラワーツリー村


その村の入り口には大きな門があった。

フラワーツリーという村らしい。門に書いてあった文字をルークが読んだ。


サスケの言う通り、村人が変だった。

数人に一人の割合だった。村人の体から、花が咲いていた。遠めに見ればファッションのように見えるが、花は村人の体と一体化している。村人の腕や足、頭から生えているモノもある……。



“村人たちに不審な様子はない。つまりこれは、彼らにとって当たり前の景色なんだ……” ルークは思った。

サスケが耳打ちしてくる。

「やっぱり変でしょ」サスケは言った。

ルークはうなずいた。


ルークは迷う。見慣れない人種に話しかけるのは怖かったからだ。ただ好奇心もあった。

ルークが躊躇している間に、サスケが何かに気付いた。

「あ!エキドナさんがもう村の人に話しかけてる」サスケは言った。

サスケの指さした方を見ると、エキドナが村人に話しかけている。

「すみません、なぜ花を生やしているのですか?趣味ですか?風習ですか?この花……微妙な魔力を帯びているようですが……。ちょっとかじってみてもいいですか」エキドナは言った。

エキドナはまくし立てるように村人に話かけている。村人は逃げ腰だった。エキドナはその様子に気付かず、獲物を追い詰めるピューマのように血走った眼をしていた。ルークは慌てて指示を出す。

「サスケ、回収!」ルークは言った。

「アイアイサー」サスケは言った。

サスケは『影渡り』を使い、エキドナの影から飛び出ると、エキドナの延髄に見事なネリチャギ(かかと落とし)を決めた。エキドナはブサイクな悲鳴を上げながら倒れた。ルークはダッシュしてエキドナの体を支える。

“この天使(アホ)やたら重い……”ルークは思った。

間一髪、ルークは村人を魔の手(エキドナ)から助けることに成功した。

ルークはおびえていた村人に向き直る。村人はルークの胸元のヒスイに気がついた。

「あの……勇者様ですか?」村人は尋ねた。

「あぁ……まぁ一応……」ルークは言った。

ルークの歯切れが悪いのは、ルークは正式な勇者ではなかったからだ。胸元の勇者のヒスイも勇者カイザーのものだった。

“自分は借り物ばかりだな……”ルークは思った。自嘲気味に笑うが、それは表には出さない。

目の前の人にとって、ルークの気持ちなど関係ない。勇者である以上、そのブレイブで困っている人を助けるだけだ。ルークは気持ちを引き締めた。

村人はルークに頭を下げた。

「勇者様、われわれのフラワーツリーの村へようこそ、よく来てくださいました」村人は言った。

ルークはその様子から何か村に問題が起きていることを悟った。

“賢者の元へ行く前にこの村によったのは正解だったかもしれないな”ルークは思った。


村人はすぐに村の中を案内してくれた。

ルークはその道中でこの村の異常に気付いた。“この村は人だけが花と共生しているんじゃない。家も木も家畜も……何から何まで花に取りつかれている。何が起きているんだ一体……”ルークは思った。


村のそこら中に花が咲いていた。家の屋根の上、かまどの中、走り回る犬のしっぽの先。

ルークはさらに観察しているうちに、生物に寄生している花は欠損を補っていることに気付いた。手のない人の手になり、足のない人の足になっていた。

“この村の問題はこの花に関係があるんだろうな……”ルークは思った。


ルークはエキドナを背負っていた。幸せな顔をして気絶をしている。邪魔だからその辺に転がしておきたかったが、目覚めたエキドナが暴走するのは避けたい。ルークは村人にエキドナの暴挙を詫びた。

ルークは念のため、サスケを影の中に潜ませていた。サスケはルークのアイコンタクトに気付くと、村の情報収集のため影渡りを駆使してどこかへ消えた。“サスケならうまくやってくれるだろう“ルークは思った。



ルークは村長の屋敷に通された。

一番大きな家だった。ルークは自分の村を思い出していた。“このフラワーツリーの村は自分が育った村に似ている。もちろんこんなわけのわからない花など咲いていなかったが……”ルークは思った。

少し広めの部屋に囲炉裏があった。中央で火が燃えている、ルークは囲炉裏のそばで座っているように言われた。エキドナを柱の影に立てかけると、ルークは座布団に座った。しばらくするとやってきたのは、男だった。村長にしては若かった。


「ようこそ勇者様。フラワーツリーの街へ……。そこの女性はそこでいいのかな?」村長は言った。

「えぇあそこへ転がしておいてください。起きるとうるさいので……」ルークは言った。

“最近エキドナさんの扱いがひどい気がする……。天使になったからだろうか……。まぁ気にすることではないか”ルークは思った。

村長はうなずくと口を開いた。

「お客様にお茶を出せなくて申し訳ない……。この村で採れたものを出してしまうと、あなたまで花に取りつかれてしまうんだ」村長はいった。

ルークはそのやり取りでいろいろ気が付いた。


花はやはり害であること。村長の悩みに花が関わっていること。そして、この村長が口下手だが優しい男であること。

ルークの中のブレイブが反応する。

「村長、その花について詳しい話をお聞かせください」ルークは言った。

村長はしばらく火を見つめていた。村長はしばらく考え込んでいたが、観念したかのように口を開いた。


「長い話になります……。あの花が出始めたのは『愚者の塔』ができたころまでさかのぼるんです……」村長は言った。


囲炉裏の中の火が揺れて、村長の顔を優しく照らし出した。


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