第56話

サスケ 野宿ごはん


「ほらサスケ!さっさと飯作れ」ルークは言った。

「そうよサスケちゃん。あなた負けたんだからしっかりやりなさい」エキドナは言った。

サスケは叫ぶ。

「くそー。誰よ負けたらごはん当番って決めたやつ」サスケはいった。


ちなみにそのルールを決めたのはサスケだった。どんまいサスケ。頑張れサスケ。

ルークはサスケにエールを送る。サスケはぶつくさ言いながら魚を捕まえていた。


ルークはエキドナと戦い方について相談する。

「エキドナさんは遠距離系が得意みたいなので、ぼくが前衛、サスケが補助、で、遠距離からエキドナさんが攻撃するみたいな感じで行きましょうか」ルークはいった。

「そうね。するとあなたの負担が大きそうだけど大丈夫?」エキドナは言った。

エキドナが確認しているのは、ルークが前線から指示を出せるかどうかだった。エキドナの指摘の通り、ルークにはそれをやり切る自信はなかった。

ルークが思い出すのは勇者カイザーの戦い方だった。

“カイザー様は本当にすごい。戦いながら的確な指示も出していたのだから”ルークは思った。

ルークは若い。エキドナの指摘を受け入れることができなかった。

「指摘はありがたいのですが、たぶん僕が指示を出したほうがいい気がします。勇者なので」ルークは言った。

ルークは少し焦っていた。勇者カイザーの背中は遠い。少しでも早く成長しなくてはならない。

ルークは焚き火に枝を投げ込む。枝は熱と光を発して火に呑まれた。


エキドナは少し考え込むと口を開いた。

「おそらくその考え方ではダメね。ですが、まぁやってみましょう」エキドナは言った。

ルークはエキドナの発言に少しショックを受けた。

“自分だってダメなのはわかっている、でもやってみないとわからないじゃないか”ルークは思った。

ただし表情には出さない。ルークは自分が未熟であることも分かっていたからだった。

エキドナはルークの表情をみて微笑む。

“素直なのはいいことね”エキドナは思った。


そこへサスケが戻ってきた。

「よっしゃっ!とってきた!」サスケは言った。

サスケが抱えていたのは巨大なナマズだった。サスケを丸のみ出来そうなサイズの大きなナマズ。川の主(ぬし)と呼ぶのがふさわしい。


サスケは、どしん。と音を立ててナマズを火のそばにおろす。

エキドナは唖然とした。

エキドナは普通の魚が食べられると思っていたからだ。

“そもそもナマズって食べられるの?”エキドナは思った。

「お、なかなかおいしそうじゃないか。サスケ」ルークは言った。

ルークは立ち上がると、ナマズを解体し始めた。


エキドナは戸惑う。

“ルークくんですらこの状況を受け入れている。なにか嫌な予感が……。そういえばカイザー様は頑なにこの二人に料理を作らせなかったような気が……”エキドナは思った。


サスケとルークはあれよあれよという間に、食材を解体して調理していく。

ルークが切って、サスケが串に刺す。“ほれぼれするような連携ね……。この手際なら料理も食べられるものができるんじゃないかしら……”エキドナは思った。

エキドナは少し安堵した。

サスケが謎の壺を取りだすと、ナマズ肉をたれに漬けていく。

ルークが笑顔になる。

「お。それがうまいんだよな」ルークは言った。

「ね。『特性ニンジャタレ』持ってきて正解だったね」サスケはいった。


エキドナは『特性ニンジャタレ』をおそるおそる覗いてみる。

タレは独特の粘り気と不思議なにおいを放っていた。

エキドナは聞いてみる。

「ルークくん、その『タレ』は一体何が入っているのかな?」エキドナは言った。

ルークはにっこりと笑って答える。

「分かりませんが、おいしいですよ」ルークは言った。

太陽みたいな笑顔だった。エキドナは何も言えなくなる。


サスケは火のそばに串を置いていく。肉が焼ける香ばしいにおいがしてきた。

タレが気になるエキドナは、サスケにも聞いてみる。サスケは首を振った。

「エキドナさん、これはわたしの里に伝わる『秘伝のたれ』なんです。部外者には教えられません」サスケは言った。

「わたしはその……『安全性』を知りたいのだけれど……。食べて大丈夫なものなの……?」エキドナは言った。

しかし、そのつぶやきは二人のはじけるような笑顔に打ち消された。

「「秘伝なので」」ルークとサスケは言った。


エキドナの脳裏にカイザーの姿が浮かぶ。かたくなに自分で料理を作り続けたカイザー様……。もしかして、この2人になにかひどいものを食わされたからなのかしら……。エキドナの不安は消えなかった。


「そろそろオッケーだね」サスケが言った。

サスケは串を一本手に取る。タレが火の中へ落ちて香ばしいにおいが広がった。

そこでルークが提案をする。

「ちょっと待て、サスケ。われわれの里の味をエキドナさんにまず食べてもらうのはどうだろう?仲間になった記念に」ルークは言った。

「……うん、そうね。それがいい。エキドナさん昼間はいろいろ言ってしまったけれど、仲直りしませんか。よかったら先に食べてください」サスケは言った。

サスケは焼けたナマズの串を差し出す。

エキドナの脳裏に衝撃が走る。

“食いしん坊のサスケちゃんが自分の食べる分を人に渡すなんて……。これは本当に食べてもいいものなの……?”エキドナは思った。

ルークとサスケが期待を込めたまなざしでエキドナを見る。


エキドナは観念した。

“大丈夫、わたしなら死なない。あらゆる状況から生還できるのが私の強み。食べましょう”エキドナは思った。

「頂きます!!」エキドナは言った。


エキドナは肉にかぶりつく。そのまま咀嚼する。

“なぜか、本当になぜかは分からないけど。パイナップルに醤油をかけた味がする……”エキドナは思った。

エキドナは二口目を口にする。二人にコメントを期待されているからだ。これでも二人よりは大人、感想を述べなければならない。

“今度はグレープフルーツにケチャップをかけた味がする……。どういうことなの……私の理解の範囲を超えている……”エキドナは思った。エキドナの額から汗がにじむ。

なんでこんなわけのわからない味がするの……。

サスケが待ちきれずに声をかける。

「エキドナさん、お味はいかがですか?」サスケは言った。


エキドナは覚悟を決めて応える。

「おいしいわね。なにか不思議な味がするわ」エキドナは言った。

「そうですよね。良かったらバンバン食べてください。まだたくさんあるので!」サスケは言った。

「それじゃあサスケ俺たちも食べよう」ルークは言った。

「待ってました。いただきます」サスケは言った。


あっという間にサスケはすべてのナマズ串を食べ終えた。

「おいしかった……」サスケは言った。

ルークがサスケを非難する。

「こらサスケ。お前がたくさん食べるからエキドナさんが全然食べられなかったじゃないか。エキドナさんお腹いっぱい食べられましたか……?」ルークは言った。


エキドナは何とか1本を食べ終えたところだった。エキドナは二人に告げる。

「わたしダイエットしているから、あまり食べないの」エキドナは言った。

“自分のご飯は自分で作ろう”エキドナはかたく誓った。

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