第54話

賢者 愚者の塔


賢者は退屈していた。

魔王の部下ルシファーがめっきり姿を見せなくなったからだった。

賢者が住んでいるのは愚者の塔の一番上。地上から見上げても見えない場所。そんなところへやってくる生き物はそうそういなかった。

賢者はあくびをする。


愚者の塔は、賢者のためにつくられたダンジョンだった。


賢者は自分の知識を試すためにバイオトープ(実験場)を必要とした。賢者はそこで、多くの実験モンスターを生み出していた。目的はただ自分の好奇心を満たすため。狼とりんごを掛け合わせたモンスター。バラから作り上げたアリ。魔力と意思をもった植物。次から次へと珍妙な生き物を作り上げていった。

”変なやつがいる”そんな噂を聞きつけてやってきたのがルシファーだった。

ルシファーは賢者の実験結果を目にするや否や、愚者の塔を賢者のために作った。

賢者は気になって聞いてみた。”どうしてわたしにそこまでしてくれるんですか……?”賢者は言った。

ルシファーは少し考え込むと、口にした。

”何か面白そうだったから”ルシファーは言った。

ルシファーはその回答に満足せずにさらに付け加えた。

”あと……なんとなくだけど。お前は俺のきらいな魔女と似ているからかな。俺はあまのじゃくなんだよ”ルシファーは言った。

賢者はそれ以上はなにも聞かなかった。賢者は環境さえ整えばそれで満足だった。

”誰にも邪魔されず、作りたいものを作ろう”賢者は思った。


賢者は実験の成果をダンジョン内に廃棄した。初めは弱い魔物ばかりだった。しかし、そのうちにどんどん強い魔物が生まれるようになってしまった。蟲毒のように……。つまり愚者の塔は、賢者とルシファーが人工的に作り出したダンジョンだった。しかし、賢者本人にはその自覚はない。もちろん今は亡きルシファーにもその自覚はない。二人ともただただやりたいこと(実験)を続けていたらダンジョンが出来上がってしまっただけのことだった。


賢者自体は戦闘向きではなく塔を降りることはできなくなってしまった。しかし、逆に誰からも干渉されることがなくなったことで賢者は毎日楽しく実験ができるようになったともいえる。


“たまにルシファーみたいな変わったやつが遊びに来るしな”賢者は思った。


一昔前は賢者に会いにたくさんの勇者が訪れた。

勇者たちは愚者の塔を突破して賢者に会ってくれていた。そんなことを思い出しながら今日も賢者は実験を続ける。


今日の実験は豚に魔力を帯びたエサを与えよう。魔力の量を日ごとに増やし続けたらどうなるかを確認してみるか。


賢者は起き上がった。

「さぁきょうも張り切って実験しようか」賢者は言った。

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