第53話

ルークとサスケ 宿屋


サスケは立ち尽くしていた。

サスケは空っぽの鍋を見つめながらずっと“カニ雑炊……カニ雑炊……”と言っていた。


ルークは体の痛みが徐々になくなっていくのを感じていた。

動かすたびに悲鳴を上げていた骨や関節が、いくぶんか楽になった。


ルークは肩や首をまわして確認する。

サスケが恨みがましい目をずっとルークに向けていたが、無視した。

病人から病人食を奪おうとした奴にかける言葉はない。



“これからどうしようか……”ルークは考えた。

まずブギーマンa.k.a.シロを止めなくてはならない。シロはどうやら世界中で暴れているらしい。目的は分からないが、放置はできない。

そしてカイザー様は今どういう状況なのかを突き止める必要もあった。

勇者の剣が折れたというのは、異常事態だった。

カイザーの剣は今、剣先がない。ルークはこんなことは聞いたことがなかった。



部屋のドアがノックされた。

ルークはその音で思考を中断する。

“一体だれだ……?宿屋の人か……”ルークは思った。

サスケに目をやると、サスケは首を振った。

“訪問者がだれかは分からないけど、脅威も感じないって表情だな”ルークは思った。


サスケとは長い付き合いだから、アイコンタクトで意思疎通が図れた。

ルークは扉を開ける。



やってきたのはエキドナだった。魔女エキドナ。ルークはエキドナを妖精だと思っていた。しかし、彼女は魔女だった。カイザーが魔王であったように……。

“ブギーマンに殺されたはずの彼女が何でここに……?”ルークは思った。


そして同時にエキドナの異変にも気づいた。ルークはどうしても我慢できず、指摘してしまった。

「エキドナさん……」ルークは言った。

「ルークくん。言いたいことは分かってる、わかってるから口に出さないで」エキドナはいった。

「ですがその背中……。天使の羽ですか……?」ルークは言った。

そう、エキドナの背中には大きな天使の羽が生えていた。

「正確には堕天使の羽ね、あなた方もご存じのルシファーの羽よ」エキドナは言った。

エキドナは心底イヤそうな顔をしながら言った。


エキドナはいきさつを話してくれた。


エキドナはぎりぎりの状態で助かったこと。ルシファーの体を依り代に復活を果たしたので、いろいろ能力が変わってしまっていること。妖精化や変身ができなくなったこと。属性としては魔族から天使になってしまったこと。大きく弱体化したこと。

そして、翼が消せないこと。



ルークとサスケは話を聞きながら必死に笑いをこらえていた。

エキドナは美女だった。そして、美女の背中にかわいらしい翼がついているのが面白かった。まるでハトのような翼だった。エキドナはまだ翼のコントロールがうまくいかないらしく、翼が勝手に動いていた。

サスケは布団をかぶって爆笑していた。


“クールビューティーエキドナがお笑い要因に成り下がってしまった”サスケは言った。

サスケは失礼なことを言いながら、腹を抱えて笑っていた。


ルークはなるべく羽に目をやらないようにしながら、エキドナとの会話を続ける。

ルークはエキドナの額に青筋が浮かぶのを見た。サスケはそれに気づかない。

ルークはなんとか空気を元に戻そうとする。

「エキドナさん状況を教えてください」ルークは言った。

エキドナはサスケに冷たい視線を向けていた。エキドナはルークの方へ向き直ると咳ばらいをした。

「現状、勇者の数はだいぶ減ったわね。残っている勇者は本物の実力者だけってところ。どうやらブギーマンは発信力のある勇者を狙っているらしいわ。まぁそのほうがブギーマンの力の源である恐怖が増幅するからでしょうね」エキドナは言った。

「そうですか……」ルークは言った。

ルークは話にあまり集中できなかった。エキドナの羽がパタパタと動くからだ。現にいま話している最中にもエキドナの体はちょっと浮いていた。“エキドナに恥をかかせてやろうという意思を感じる”ルークは思った。


ルークは呼吸を整えると会話に集中した。

「エキドナさん僕はどうするべきですか?」ルークは言った。

勇者として、ブギーマンと戦うのは確定事項だった。しかし、わからないことが多すぎる。蛮勇とブレイブは違う。

ブギーマンと言う存在をもっと知ってから、戦いを挑む方がいいとルークは思った。

エキドナもルークの意見に賛成のようだった。

エキドナはうなずく。

「そうね。だからまず我々は愚者の塔を目指しましょう、賢者に会うために」エキドナは言った。


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