第52話

ルーク 宿屋での目覚め


ルークは見慣れない天井で目を覚ました。

“ベッドに寝かされているらしい……“ルークは背中の感触からそう判断した。宿屋だろう。

頭中に包帯が巻かれていた。右目が少しおかしかった。


“なにか景色がかすんで見えるな……”ルークは思った。

右手を動かすと体中に痛みが走る。


ルークはシロとの戦いを思い出していた。

“おれはたぶん勇者になったんだよな……”ルークは思った。

ルークは首をひねった。そこにはカイザーの勇者の剣があった。本来勇者自身にしか持てない『勇者の剣』が、あのときルークにも扱えたのはどういうわけだろう。

ルークは考えようと思ったが、そのとき廊下から騒がしい声が聞こえた。


サスケがドアを開ける。

「おはようルーク!元気?」サスケは言った。

ルークはうなずいた。

「あぁ体中痛むけど、問題はないよ」ルークは言った。

「ちょっとまっててー」サスケは言った。

サスケは踵(きびす)を返すと、部屋から出ていった。

“あわただしいやつだな……”ルークは思った。


ルークは痛みに耐えながら体を起こした。

そこへ巨大な鍋を抱えたサスケが戻ってきた。

「よっしゃルーク!食べよう」サスケは言った。



サスケが運んできたのは薬膳料理だった。

ルークにはよくわからなかったが、どうやら薬草なども一緒に煮込んであるらしい。

サスケが鍋の蓋を開けると、おいしそうなにおいが部屋に満ちた。

“これはおいしそうだ”ルークは思った。

サスケがルークの器によそうと、そのままサスケが食べる。

「おまえ何をしているんだ?」ルークは言った。

ルークは自分がもらえるものだと思っていたからだ。病人なのはルークで、病人食が必要なのもルークのはずだ。

「味見だよ味見。毒が入っていたらやばいじゃん」サスケは言った。

ルークは一応納得した。

「よし、それならサスケ。もう毒は入っていないことは分かった。あとは自分で食べるから、器をよこせ」ルークは言った。

ルークとしては最大限譲歩をしたつもりだった。

サスケは首を振る。

「まだだめだよルーク。このカニ雑炊のカニの中にも毒が入っているかもしれない。わたしの心配ならいらないよ」サスケは言った。

「おれが心配しているのは、お前ではなくカニ雑炊だ。おまえ……さては全部食おうとしているな。器をよこせ」ルークは言った。

「けち!ちょっとくらいいいじゃない。こんなにたくさんあるんだから」サスケは言った。

サスケは言いながら、器に盛る。そして一口に平らげる。

「おいしい!だしが効いてる」サスケは言った。

ルークは恐怖を覚えた。このままではカニ雑炊がなくなってしまう。

病人の病人食を食い尽くす人間がこの世にいるとは考えたくなかった。

ルークは覚悟を決めた。


ルークは勇者の剣を起動する。

光の剣がサスケの動きを封じた。

ルークはサスケから器を取り返すとようやくカニ雑炊にありついた。

サスケは暴れた。

「ぼけ!たこ!くそルーク!わたしのカニ雑炊を返せ」サスケは言った。


ルークは最後の一粒まで平らげた。

「ごちそうさまでした」ルークは言った。


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