第44話

カイザー VSブギーマン


“さてどうしたものか……”カイザーは思った。

大きく見えを切ったが、あいつは一体何なんだ。


カイザーはブギーマンに脅威を感じなかった。

“なんであんな奴にエキドナはやられたんだ?エキドナの演技か?”カイザーは思った。

ちらりとエキドナの生首を見たが、どう見ても演技とは思えなかった。


“エキドナのやつ……普段紛らわしいことばかりしているせいで、演技かどうかもわからん……”カイザーは思った。


カイザーはルークを見る。ルークはもう落ち着いていた。“本当によく成長したものだ”カイザーは思った。


ルークはブレイブを集めて、火炎剣を作り出す。サスケがルークの影に入った。ブギーマンは、自分の生首を拾い上げると元通りに取り付けた。

動作を確かめるように首をパキパキ鳴らす。問題がないことを確認すると笑った。カイザーの方を見る。

「さてさて、あなたが勇者ですね。私の名前はブギーマン、以後おみしりおきを。ほんとうに申し訳ないのですが、あなたには死んでもらいます。ほんとうにごめんなさいね。あなたの思いは真摯にうけとめますよ。あははは」ブギーマンは言った。

ブギーマンは後ろにひっくり返りながら足をバタバタしている。なにがそんなに面白いのかわからないが、ルークが一歩前に踏み出る。

ルークの火炎剣が、プラズマを起こす。

「エクスプロージョン!!」ルークが言った。


ルークが剣を振りおろすと、レーザーのようにブギーマンの体に線が入る。しばらくたって、切り口が爆発した。ブギーマンの体が袈裟切りに崩れる。ブギーマンは悲鳴を上げた。

「ぎゃー痛い!まるで体が真っ二つになったみたいだ。あははは」ブギーマンは言った。


カイザーもルークもサスケも、ブギーマンからは不気味さしか感じなかった。

“攻撃が効いているかが全く分からない……”カイザーは思った。

ブギーマンは切断面をなんとかくっつけようとしていた。

「あぁそうだ。糸で縫えばいいんだね」ブギーマンは言った。

ブギーマンは懐から糸と針を取りだすと丁寧に体を縫いはじめた。

ブギーマン自身の体に針を通すたびに、だらだらと血が流れる。

ブギーマンは涼しい顔で体に針を通し続ける。


“痛みを感じないのか……?”ルークは思った。


ブギーマンは、自分の体が元通りになると唸った。

「お前たちよくもやってくれたな、くらえ『聖隷召喚』」ブギーマンは言った。

ルークは身構えた。しかし何も起こらない……。


カイザーは困惑する。“『聖隷召喚』はルシファーの技だぞ……?ルシファーもこいつにやられたのか。そもそもこいつは一体何なんだ”カイザーは思った。


カイザーはなにか嫌な予感がした。カイザーは手に持っていたエキドナの指を見る。エキドナの指が振動していた。カイザーはエキドナのメッセージを読み取ろうとする。エキドナのメッセージはシンプルだった。“ニゲテクダサイ”。


カイザーは逡巡した。“やはり戦うことを選んだことは間違いだったのか……?”カイザーは思った。その一瞬、カイザーのブレイブが揺らいだ。ブギーマンはその瞬間を逃さない。ブギーマンはいつの間にか、カイザーの隣に出現すると親友のように肩を抱えた。ブギーマンは高らかに笑う。


「あらあら、どうも。勇者様迷っちゃダメですよ、私の前ではね」ブギーマンは言った。ブギーマンはカイザーの心臓を貫いた。カイザーが持っていたエキドナの指をブギーマンが拾い上げる。高笑いをしながら、自分の指に付けた。カイザーは自分が欺かれていたことに気付く。エキドナの指はブギーマンが作り出した偽物だった。


「カイザー様!」ルークは叫ぶ。

ルークより早く反応したのはサスケだった。『影渡り』でカイザーの影から飛び出すとブギーマンに切りかかった。ブギーマンは子どものように両手を上げながら走って逃げた。

「きゃー怖い怖い!僕をいじめないでー」ブギーマンはいった。


遠ざかるブギーマンの背中に、ルークの『エクスプロージョン』が直撃する。

“あーれー”ブギーマンはそんな情けない声を上げながら、階段の奥へと消えていった。

ルークはカイザーのそばに駆け寄る。


サスケがカイザーの手当てをしていた。

しかし、なぜかサスケの顔が青い。

「サスケ、カイザー様はどうだ!」ルークはいった。

サスケはルークを見ると、カイザーの体を指さした。サスケの指が震えている。


ルークはカイザーの体から血が一滴も流れていないことに気付いた。

“どういうことだ?これはブギーマンの能力か……?”ルークはおもった。

「サスケどうなっている?」ルークはいった。

サスケは震える声で応える。

「カイザー様は人間じゃない……」サスケはいった。


“え?”ルークの心に疑念が生まれる。脳の処理が追い付かない、ルークは動揺した。そこへブギーマンが出現する。

「なぁなぁそいつほんとに勇者か?俺にはどうみても人間には見えねーんだけど」ブギーマンが言った。

ルークは怒りに燃え上がった。振り向きざまに火炎剣を振るう。ブギーマンの体が火に包まれる。ブギーマンはマンガみたいに転げまわる。

「あちー!何すんだ!せっかくの一張羅が台無しだぜ。まぁでもちょっくらい汚れている方がかっこいいかな?」ブギーマンは言った。

“どこまでもふざけたやつ”ルークは思った。

ルークの今までため込んでいた怒りがここにきて爆発した。正しいタイミングで怒りを用いた時、ルークは心の中が冷静になるのを感じていた。

“カイザー様が何者であるかなんて関係あるか?あの人は何度も助けてくれた。それだけで十分じゃないか”ルークは思った。

仲間を信じる心。ルークの中で、最後のピースがかちりと音を立ててはまった。ルークの思考がクリアになる。

ブギーマンはルークの剣を跳ね回って避ける。

「おいおいルークくん。君はやりづらいなぁ、怒ったり冷静になったり、それなのに心に疑念がない。やりづらい、やりづらい。腹立つなぁ」ブギーマンは言った。


ルークは直感した。“ブギーマンは心を見ている。恐怖や疑念がこいつを増長させる、だったらやるべきは信じることだ、仲間を”ルークは思った。余計な考えを捨てたことでより思考が明晰になった。“こいつを倒す、おそらくこいつは俺にしか倒せない”ルークは思った。


ルークの直感は当たっていた、ブギーマンは“シロの瞳”を使うことで相手の心を観察していた。

「うげー。お前本当にやりづらいなぁ。勇者でもないくせに、心に希望が灯っていやがる。なんでお前そんなにハッピーなんだよ。狂ってんのか?」ブギーマンは言った。

ブギーマンはお手玉を投げる。

お手玉は空中で巨大なイモムシやカエルになったが、ルークは最小限の動きでかわし切り捨てた。切り捨てられた生物はお手玉に戻った。


なぜかブギーマンが焦燥していた。ブギーマンがいらだちを見せ始めた。

「気に食わない!気に食わない!なんだお前のその心」ブギーマンは言った。

ブギーマンの演技がはがれ始める。

ブギーマンは両手から半月刀を生やした。ルークへの苛立ちから、攻撃が大ぶりになる。今までのような精神攻撃ではなく、直接攻撃になった。ブギーマンのその選択は悪手だった。ルークは冷静に対処する。ブギーマンは吠える。

「お前はしってんのか!この世には、だれにも愛されない人間が生まれてくるんだ!何の罪もない人間がゴミみたいに捨てられているんだ。お前は知っているのか?たまたまごみダメみたいなところに生まれただけで、ごみダメみたいな生き方をしていかなきゃならないやつの気持ちが。誰にも見つけてもらえずに、だれにも愛してもらえずに、だれかを愛さなきゃいけない恐怖が。お前にわかんのか!」ブギーマンは言った。

ルークはブギーマンの言葉を聞きながら、じっとブギーマンを見ていた。

怒りと絶望を叩きつけてくるような刃をいなしながら、冷静に見ていた。


だからルークは気づいた。

ブギーマンが泣いているように見えたこと。そしてブギーマンの顔が知っている誰かの顔にそっくりだったこと。

「おまえシロか?」ルークは言った。

ブギーマンの演技はすべてはがれ、そこにはアルビノの神官シロがいた。


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