第43話
カイザー一行 神殿内
奇妙なことに神殿関係者は誰もいなかった。遠くから見ている気配もなかった。監視の小動物も消えていた。神官長が使役する監視クモたちも。
大広間中央にあるのは、樽だけだった。
この街に入った時、プラダが運んでいた樽。
邪悪な存在が封印されていた樽。
いまでは封印が解けているようだ、蓋が空いている。
ルークは息をのんだ。
その瞬間、突然明かりがついた。
ネオンライトのような高電圧が流れる。ところどころでスパークした。
そして再び暗転。
スポットライトに樽が照らし出される。
びっくり箱のように、樽から生首がとびだした。
カイザーだけがその顔を知っていた。
「エキドナ……」カイザーはいった。
ルークがそのつぶやきに反応する。
「あれがエキドナさんなんですか!なんであんな所に」ルークは言った。
今度は樽と反対側が照らし出された。そこには、足を引きずるシロの姿があった。
シロは肩をおさえて血を流していた。
ルークが反応する。
「シロさん!大丈夫ですか!」ルークは言った。
ルークはシロに駆け寄る。
カイザーはシロから異質な魔力を感知する。とっさに叫んだ。
「下がれルーク!それはシロじゃない!敵だ」カイザーは言った。
とっさにサスケが『影渡り』でルークの影から飛び出し、シロの首を刎ねた。
シロの首がコロコロと地面に転がる。
ルークは知人の首が刎ねられるのを見て戸惑う。
「な、なにを……」ルークはいった。
そこでルークは、シロの体の方を見た。体からはもう血が流れていなかった。
首の切断面からは、血の代わりに花びらが流れていた。
取り乱すルークの元に、鼻歌が聞こえた。懐かしいメロディ。
鼻歌はシロの生首から聞こえた。
ルークが生首を見ると、生首と目が合う。
生首は笑った。
「あはははは!はじめまして勇者の皆さん。わたしがブギーマンです。そこの赤い髪のあなた!あなたが勇者様でしょうか?」ブギーマンは言った。
ルークは怖くてとっさに答えられなかった。思考が恐怖に支配される。
“こいつはシロじゃない”ルークは思った。
シロの生首はケラケラと笑いながらルークの方へ転がってきた。ルークは刀を引き抜いて、切りかかる。刀が当たる直前、ブギーマンの表情からシロの表情へと変わった。
「ねぇルークさん。バナナおいしいですね」シロは言った。
ルークはこれがシロではないことがわかっていた、シロではなくブギーマンと言う魔物がシロの体を乗っ取ったことを。わかっているのに、ルークは刀を振り切ることができなかった。
「あははは!あなたはいい人ですね。さてはあなたが勇者ですね。死んだらいいですよ、こっちも仕事なんで。ごめんね」ブギーマンは言った。
ブギーマンは、骨格からは考えられないほどに口を開いて、ルークにかみついた。
その頭部をサスケが思いっきり蹴り飛ばす。ピンボールのように生首は飛んでいった。
サスケはルークの隣に着地するとルークを小突いた。
「しっかりしろ、ばかルーク。あれはシロじゃない」サスケは言った。
「わかってる。……ありがと」ルークはいった。
ルークは頬を叩くと、再び剣を構えた。その表情にもう揺らぎはない。
カイザーはその様子を確認すると、二人の前へ踏み出た。
「わたしが勇者カイザーだ。ブギーマンとやら、お望み通り答えてやったぞ。勇者の剣を見せてやろう」カイザーはいった。
そして、勇者の剣を地面に突き刺す。
サスケとルークを温かい波動が包んだ。
ブギーマンの生首がケタケタと楽しそうに笑った。
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