第42話
次の日 牢の中ルーク
ルークは起き上がった。鍵は開いていた。誰が開けてくれたのかはわからない。おそらくシロあたりが開けておいてくれたのだろう。ルークはそう判断した。
ルークはいびきをかいて寝ているサスケをそのままにして、牢の外に出た。
カイザーはすでに起きて、準備を始めていた。
「カイザー様おはようございます」ルークはいった。
「あぁルークおはよう。変なことに巻き込んでしまってすまないな」カイザーはいった。
ルークは今日戦うことになってしまった魔物について思った。そして、あの目つきの悪い神官長のことも思った。神官長のことを考えると、はらわたが煮えくり返ったが、心を落ち着ける。この怒りは、今日戦う相手にぶつけよう。ルークは結論付けた。
「別にかまいませんよ、わたしたちが勝てばいいんですから」ルークはいった。
カイザーはルークの成長を感じていた。ユグドラシルの街での頼りない姿を思い出す。
“人間の成長は早い”カイザーは思った。
歴代の勇者たちの成長を思い出す。彼らは全員、最初は弱かった。カイザーなら片手で一ひねりだろう。なんなら魔力を軽く射出するだけで殺せた。
それが、1年も旅をすれば魔王に肉薄するくらいまでに成長する。
もちろん、ブレイブが備わっていることが重要だが……。
むろんルークにもブレイブが備わっていた。もしかしたら、とカイザーは考える。
“もしかしたら、おれはあの始まりの街で『ルーク』という次の勇者の芽を摘んでしまったのではないか……?”カイザーは思った。
カイザーさえいなければ、ルークが勇者に選ばれていた可能性は大きい。初めてあったときのルークに勇者は無理だっただろう。しかし、今の成長ぶりを見ればルークが勇者にふさわしいことは明らかだった。
“わたしは軽率だったな”カイザーは思った。わたしがわざわざ勇者になどならずとも勇者の芽は着実に育っていた。ルークのブレイブは完全に目覚めている、本来であればルークこそが勇者となるべき器だった。
カイザーはそんなことを考えながら剣を磨く。
勇者の剣はいまだカイザーの剣のままだ。勇者のブレイブに合わせて勇者の剣は形を変える。今でもカイザー仕様の剣という事はカイザーのブレイブはまだ残っているという事だった。
“少しでも歴代勇者たちに近づけただろうか……”カイザーは思った。
刀身に反射する自分の姿を確認する。
そこへ眠い目をこすりながらサスケが起きてきた。
「おはよーございます」サスケはいった。
まだ目覚め切れていないのか、目をこすっている。ルークが水場まで連れて行った。
カイザーは苦笑する。
“ルークにはサスケもいる。やはりわたしがなにか神の筋書きを変えてしまったのではないだろうか……”カイザーは思った。
カイザーの足元に、何かが当たる。
拾い上げるとそれは指だった。エキドナの指がイモムシのようにここまで這ってきたのだった。“エキドナの身に何があった……?”カイザーは思った。
カイザーがわかっていることは一つ、エキドナになにかヤバいことが起きたこと。そしてそれは、きっとカイザーたちにも降りかかる危険だといういこと。
“ここは逃げたほうがいい”魔王のカイザーが言った。
“いや、ここで逃げては勇者がすたる。お前は勇者だろ”勇者のカイザーが言った。
カイザーは勇者の言葉を選んだ。
それが最悪の結果になるとも知らずに。
カイザーたちは準備をすますと階下へと降りて行った。
不思議なことに、だれともすれ違わなかった。サスケが口を開く。
「なんか静かだね……」サスケはいった。
ルークがそれに応える。
「あぁ……。このプレッシャー、ちょっと村の近くの廃城のときに似ている……」ルークは言った。
“この神殿すでにダンジョン化しているのか”カイザーはルークにそういわれて気づいた。
カイザーは自分の魔王属性値が大幅にアップするのを感じた。魔族にとってダンジョンはホームのようなものだった。
階段をおりると大広間に出た。
昨日、神官長と約束した場所だった。
「ここに、魔物がいるんですね」ルークが言った。
ルークがごくりと唾をのむ。サスケは油断なく短刀に手をかけた。
その二人の前へとカイザーは足を踏み出した。
二人に言う。
「ルーク、サスケ。わたしがいるから大丈夫だ」カイザーは言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます