第40話

エキドナ 大広間


エキドナはブギーマンの一部始終を見ていた。

“おい!エキドナ放せ!”ルシファーは言った。


エキドナは捕まえていた狐状態のルシファーを見た。あわててルシファーの首根っこを離す。

ルシファーはようやく息ができるようになって、おおきく呼吸をした。

「おまえ絶対おれのこときらいだよね」ルシファーは言った。

「もちろん」エキドナはいった。

“ムカつくけどいい笑顔だ”ルシファーは思った。

「さて、エキドナさん。わたしは今のことをカイザー様に報告しに行こうと思うんだけど、あなたはどうしますか?」ルシファーは言った。


「わたしなら、やめておきますかね。そっちの方がおもしろいので」エキドナはいった。

エキドナの価値基準は面白いかどうかだった。自分が面白いと思ったものは、試さずにはいられない。カイザーに従うのだって、カイザーが面白いものを見せてくれると信じているからだった。エキドナは確信していた”ぜったいにこれから面白いことが起きる”。

エキドナはにっこり笑うと、続ける。

「あなたのことも別に止めませんよ、知らせたければ知らせればいい」エキドナはいった。

ルシファーは言い返す。

「その割には、おれがシロを助けようとしたら止めたよね。なんで?」ルシファーはいった。

ルシファーはシロを止めようとした。倉庫に入らせるのは危険だと思ったからだ。


エキドナは笑う。

「そっちの方が面白そうだからです」エキドナは言った。

ルシファーも笑った。

「ほー、ゴーリーもそうだけど、やっぱり俺たちは相容れないんだよな。やっぱりお前殺そうか」ルシファーはいった。

ルシファーの周りで空気がしんと張りつめる。魔力が異常に増幅していく。


エキドナは冷静だった。

だからエキドナは突然の事態に反応ができた。

「なぁおまえらさっきから何やってんだ。人がせっかく寝ているのに」ブギーマンは言った。

ブギーマンは体を餅のように伸ばして、二人の後ろまで回り込んでいた。


エキドナはルシファーを前に突き出すと、自分はそこから離脱した。

「てめぇエキドナふざけんな!」ルシファーは言った。

その声はエキドナには届かなかった。ブギーマンは体を伸ばしてルシファーを囲む。

“逃げ遅れた!エキドナのヤロウ……覚えておけよ”ルシファーは思った。


ブギーマンは鳥かごのように自分の体を変形させると、ルシファーの前に出てきた。

体の一部は鳥かごのままルシファーを閉じ込めている。

シロの姿のままブギーマンはしゃべる。

「なぁきみ、見たところ狐っぽいが、かりに狐くんとよぼうか。いまここから逃げていった女性の情報を教えてくれないか?そうしたら君の安全を確保しよう」ブギーマンはいった。

「いいぜ。あの女の名前はエキドナ。人間が大好きの魔女だ。性格は歪んでいる」ルシファーはいった。あの女の素性を隠す必要なんて感じなかった。そもそもルシファーもエキドナも仲間じゃない。

ブギーマンは両手を上げて感激し、何度もルシファーに感謝をした。その動作の一つ一つが胡散臭くて、ルシファーをいらだたせる。

「狐くん、ありがとう。これで君は安全だ。なんなら明日の勇者とのバトルをそばで見るかい?VIP席を用意しようか」ブギーマンはいった。

ブギーマンはそう言いつも鳥かごを解除しようとしなかった。

ルシファーはキレる。


「なぁ、お前俺の事なめているのか?」ルシファーはいった。

それは静かな怒りだった。

ブギーマンはヘラヘラ笑う。

「なんだなめてほしかったのかい?じゃあこれでどうだい」ブギーマンはいった。

ブギーマンの口からありえない長さの舌が伸びてきた。

ルシファーは舌を切り飛ばす。ルシファーは人型に変化した。背中から堕天した証の羽が生える。それは漆黒の羽だった。

「なぁお前。ブギーマンと言ったか……。ふざけた名前だな。これでもおれは一応魔界では名の知れた魔物なんだ。おまえが何者だか全くわからないが、それはお前が調子に乗っていい理由にはならない」ルシファーはいった。

ルシファーは手を合わせる。

神殿の大広間の一部が割れて、地面から三つ首の犬が出てきた。

「『聖隷召喚』はずれだな。ケルベルスは地獄の門番だ、お前程度の相手ならコイツで十分だろう」ルシファーはいった。


舌を切られたブギーマンは痛さにもんどりをうつ。

ブギーマンが押さえていた手を取ると、口から大量の花びらが飛び出した。

ブギーマンはケラケラとバカにしたような声で笑う。

「でかい犬だなぁ。あははは。首が三つもあると首輪作るのも大変だねぇ。そうだ、おれが作ってやるよ、でかい首輪」ブギーマンは言った。

ブギーマンは、お手玉をケルベロスに投げる。


ケルベロスはそれを爪で切り裂く。切り裂かれたお手玉はギロチンになり、3つの首を切り落とした。ブギーマンは腹を抱える。

「あはは!首が三つも吹き飛んだ!ウケる。よわっちいなぁー、ケルベロス。お前も大したことないんだろう。もういいって、その翼も自分で塗装したんじゃない?イカ墨とかでさ」ブギーマンはいった。


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