第39話
シロ 倉庫
シロは言われた通りに倉庫へやってきた、途中銀色の狐を見たような気がしたけれど何だったんだろう。
シロは倉庫の奥へと踏み入れる。雑多なものがまばらに置かれていた。その間を通り抜けると、開けた場所に出た。
樽のフタが空いていた。
“神官長の言った通りだ……”シロは思った。樽のそばに近寄った時に、なにか悪寒がした。
シロは嫌な思いを振り払うために、楽しいことを考える。
“勇者様と仲間の人たちは優しかったなぁ。勇者様ってやっぱりすごい”シロは思った。勇者カイザーのたたずまいを思い出す。自分と比べても何にもならないが、それでも比べずにはいられなかった。
そしてサスケと呼ばれていたあの女の子。シロの頬が少し緩む。なんだか、不思議な気分だった。“またあいたいな”シロは思った。
そんな自分の変化を不思議に思う。シロの中に温かい気持ちが芽生え、悪寒が消えた。
「いそいで運んじゃおう」シロは言った。
シロは樽に手をかけて、地下にある大広間へ運ぶ。異端審問で使われた部屋だった。
樽は重くなかったので、難なく運ぶことができた。
“なにが入っていたんだろう……”シロは思った。てっきり、液体が入っているのかと思っていた。でも、そんな重さはなかった。
シロは樽を見える位置において大広間を後にしようとした。
樽から眼を話した瞬間、シロは樽から飛び出した闇に飲み込まれた。
シロは叫んだ。
「助けて!なんだこれ」シロは言った。
シロは振りほどこうとするが、闇は雲のようにシロにまとわりついた。
闇が話しかける。
「なんだなんだ!今回の宿主様は、あなたかい!全身まっしろとは恐れ入った。ははは。受け入れろ受け入れろ!闇はいいぞ。俺の名は『ブギーマン』ちょっと体を借りるぜ」ブギーマンは言った。
シロの抵抗もむなしく、シロはブギーマンに飲み込まれた。
ブギーマンは笑う。
「ははは!なんだこの体!すげぇ魔力だ。宿主様はシロっていうんだな。よろしく頼むぜ、シロ。そしてこの瞳面白れぇな!」ブギーマンは言った。
ブギーマンは乗っ取ったシロの体を確かめる。
シロが必死に隠していた紅い瞳を存分に開く。闇を受けた禍々しい瞳だった。
柱の影から神官長が現れた。拍手をしながらブギーマンに近づく。
「おめでとう、ブギーマン。わたしからのプレゼントはいかがかな?」神官長がいった。
ブギーマンは神官長に警戒する。手に巨大なお手玉を持った。それがどんな武器かは神官長には計りかねた。ブギーマンは、神官長に威嚇をする。
「なんだお前。お前にブギーマンと呼ばれる筋合いはない」ブギーマンは言った。
「ひどい言い草だな。わたしが君の封印をとき、その特別な体を用意したのに」神官長は言った。
ブギーマンは先ほどの表情とは一転して、笑顔になった。
「なんだなんだ。あんたが、おれをあの封印から解いてくれたのか!サンキュー。長かったぜ、ずっと一人でお手玉していたんだけどな。大変だったぜ、80個を超えると何が何だか分からなくなっちまうんだ」ブギーマンは言った。
ブギーマンがお手玉を一つ投げると、お手玉は空中で巨大なイモムシになった。巨大なイモムシがブギーマンに落下する。ブギーマンは下敷きになるが、イモムシの下から這い出してきた。
「な、言ったとおりだろ」ブギーマンは言った。
神官長は思った通りブギーマンが手に負えない存在であることに満足していた。
「ブギーマン、実は頼みたいことがある」神官長は言った。
ブギーマンが巨大芋虫を手のひらで潰すと、それは一つのお手玉に戻った。
ブギーマンは応える。
「おうとも、おれは『ブギーマン』だからな。なんでもかなえるぜ、おれのやり方だけどな」ブギーマンは言った。
神官長は用意しておいた言葉を伝える。
「この世界をなかったことにしてほしい」神官長は言った。
ブギーマンはけげんな顔をする。
「『なかったことにしてほしい』だぁ?もっと分かりやすい願いにしてくんねぇか?せっかくなんだからよ」ブギーマンは言った。
神官長は嫌な顔一つせず言い直した。
「そうだな、きみのいうとおりだ。世界中の勇者を殺してほしい」神官長は言った。
「はははお安い御用だ!おれが一番得意なやつだ。なぁなぁちなみに理由を聞いてもいいか?」ブギーマンは言った。
神官長は首を振る。
「できれば答えたくない」神官長はいった。
ブギーマンは一瞬嫌な顔をする。ただ、思いなおすと笑った。
「オーケーオーケー。クライアントの秘密は守るぜ!なんてたってブギーマンだからなぁ。順番は適当でいいか?」ブギーマンは言った。
「あした一人の勇者がここへ来る、そいつからなら楽だろう」神官長は言った。
ブギーマンはさらに笑うと、笑い過ぎてのけぞった。
「なんだよ。なんだよ。用意周到じゃねーか。まかせろ!おれが勇者どもを全員ぶっ潰してやるからよー。なぁちなみに契約成立ってことでいいか?」ブギーマンは言った。
「あぁ」神官長は言った。
ブギーマンは満足げにうなずくと、神官長の心臓を握りつぶした。
「うげー。血で汚れちまった……。これで『契約成立』だな。この仕事が終わったら遊ぶぞー。久しぶりの現世だ。さて、一応契約に従っておくか」ブギーマンは言った。
ブギーマンはもみ手をしながら、神官長の死体に近づくと死体をお手玉にした。
自分が眠っていた樽にアンダースローでお手玉を投げ込む。ついでに自分も樽に飛び込むといびきをかき始めた。
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