第37話
ルーク牢の中
神官長が出ていくとサスケが叫んだ。
「あーもう、むかつくあの神官長!バナナの皮でも踏んでころべばいい」サスケは言った。
「そのとおりだサスケ!よくいった。すみません神官の方!バナナ100房ください」ルークは言った。
隣の部屋から慌てた音がする。神官シロに声が届いたのだろう。
「はーい。ただいまお持ちしまーす」シロは言った。
しばらく待って本当にバナナが届くと、サスケとルークはやけ食いし始めた。
「バナナってめっちゃおいしいんだね」サスケは言った。
「なぁ。皮はよく落ちているけど、中身は初めて食べる」ルークは言った。
そんな二人をよそにカイザーは考えていた。
ふと、牢の外に目をやるとシロがにこにことルークたちを見ていた。
カイザーは声をかける。
「シロさんどうしました?バナナ食べますか」カイザーは言った。
ルークもシロに気付いたのかバナナを差し出す。
「良かったらどうぞ」ルークはいった。
シロは戸惑ったようにバナナを受け取った。
「あ……ありがとう……ございます……」シロは言った。
ちなみにサスケは一心不乱に食べているためシロに気付いていなかった。
ルークは残念なものを見る目でサスケを見る。その視線にもサスケは気づかない。
バナナはどんどんなくなり、ついにサスケとルークとシロの腹の中にすべておさまった。
余った皮はシロが持っていった。ルークとサスケは教会中にバナナの皮を落としておくようにお願いしたが、叶えてくれるかは謎だった。
カイザーはずっと考え事をしていた。
“あの樽の中にいる魔物は一体なんだ……?なにをたくらんでいる……?”カイザーは思った。情報が少なすぎてパズルのピースが埋まらない。
ルークが気づいて声を上げる。
「あれ?サスケ、ルシファーはどこ?」ルークは言った。
「ルーちゃんは大丈夫だよ。ね。カイザー様」サスケは言った。
カイザーはサスケの言い方で気づく。
“この様子だとサスケはルシファーがただの狐ではないことに気付いているみたいだな……。ルシファーのやつ大丈夫か。全然素性を隠せてないようだが……”カイザーは思った。
カイザーは適当に相槌をうつ。
ルシファーがどうなろうと知ったことじゃない。
カイザーはサスケへの依頼を思い出す。
「そういえばサスケ、樽はどこにあった?」カイザーは言った。
「それが一か所だけ入れない部屋があって、多分そこです。入ろうと思ったんですが……。どうやらカウンターの魔法が仕掛けられているようでした。侵入したほうが良かったですか」サスケは言った。
カイザーは首を振る。
「いや、そこまで無理する必要はないよ。サスケが無事でいる方が大事だ。ちなみに、ルシファーはそこで別れたのかな?」カイザーは言った。
サスケは笑う。
「えぇルーちゃんはそこで何か見つけたようではぐれてしまいました」サスケは言った。
サスケは言外に、そこになにかあるとカイザーに伝えていた。
意味が分かっていないのはルークだけだった。
ルークが二人のやり取りをみて抗議する。
「ちょっと、二人だけで秘密なんてズルいですよ。俺にも教えてください」ルークは言った。
サスケはにやにや笑うと口の前で✕を作った。
「内緒~」サスケは言った。
そのやり取りを見ていたのか、鉄格子の外から笑い声が聞こえた。
ルークがそちらを見れば、シロが笑っていた。
シロはみんなの視線に気が付くと、恥ずかし気にうつむいた。
「笑ってしまってすみません、とっても面白かったので……。みなさん仲がいいんですね」シロは言った。
そんなシロへカイザーが声をかける。
「すまないシロさん。もし失礼でなければその“アルビノ”について教えてくれませんか?」カイザーは言った。
カイザーはアルビノに興味があった。
サスケがシロに尋ねる。
「アルビノってなんですか?食べ物?」サスケは言った。
「お前はちょっと黙っていろ」ルークが言った。
ルークはチョップをサスケの頭に入れる。
その様子をみてシロがまた笑った。
シロがかぶっていたフードをとる。
「サスケさん、これがアルビノです」シロは言った。
フードの下から現れたのは、雪のように白くて透明な人間だった。
髪も肌も白い。
思わずルークは言葉を失う。“これはどういう事なんだろう……。なにかの病気だろうか?“ルークは思った。ルークはショックを受けていた。その顔をシロがみる。シロはいつも通り老いた猫が死に場所を探すような気分になった。
シロは悲しく笑うとフードをかぶろうとした。そこへサスケがつぶやく。
「……綺麗」サスケは言った。
シロの手がとまる。
“この子はいま綺麗といったのか……”シロは思った。
小さいころからシロは居場所がなかった。その見た目から悪魔の子と呼ばれ、蔑まれ生きてきた。親には捨てられて、流れついたのがこの教会だった。孤児は教会に入れば、いろいろな制約はあるが、飯に困ることはない。この教会長はいろいろ良くない噂はあれど、育ててくれたのは彼だった。彼には心から感謝している、だからこうして神官の仕事を続けてきた。
そんな自分が……綺麗?
シロは自分が言われた言葉が信じられなくて思わず繰り返した。
「……綺……麗……?」シロは言った。
サスケは全力でうなずいた。
「えぇとってもきれい。なにその美肌!美髪!コスメとかなに使っているの?」サスケは言った。
シロは戸惑った。
“『こすめ』ってなんだ?”シロは思った。でも答えなくてはならない。
「『こすめ』は使ってないと思う。聞いたことないし……」シロはいった。
サスケの目がグワッと開かれる。
「なにそれ!うらやましい!なにそのすべすべの肌!ちょっと触らせて、もしくは分けて」サスケはいった。
シロは驚いて後ずさった。ルークは素早く、サスケの後ろへ回るとサスケの延髄にチョップを入れて気絶させた。ルークはそのままサスケの体を引きずっていく。
シロはその様子を呆然と見ていると、カイザーが話しかけてきた。
「驚かせて済まない」カイザーは言った。
「いえ、嬉しかったので大丈夫です……」シロは言った。
そこに嘘はなかった。今シロの心の中ではなにか温かい気持ちが芽生えていた。
だからカイザーにもアルビノのことを話してみようと思った。
「カイザーさん。僕らアルビノは日光に弱いんです。だから僕は、だれもやりたがらない看守をやっています。畑を耕すことも、荷を運ぶこともできません。そんな無能な僕でも神官長は養ってくれています。ほんとうは心の優しい方なんだと思います」シロは言った。
カイザーは笑いながらシロの話を聞いてくれた。
シロがこんなに笑ったのは久しぶりのことだった。心の中の温かいものがさらに大きくなる。
シロはカイザーに別れを告げて自室に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます