第35話
ルーク牢の中
「それでは勇者様申し訳ありませんが、こちらでお待ちください」シロは言った。
カイザーは牢に大人しく入る。
白髪の神官は丁寧に手錠を解除してくれた。カイザーは自由になった両手をさする。
「ありがとうシロ。わたしたちの世話はあなたがしてくれるのかな?食事の支度とか」カイザーは言った。
シロは笑顔で答える。
「えぇ。わたしが主にあなた方の監視を担当します。何か不都合あったら気軽に呼んでください。わたしはそちらの部屋で待機しております」シロは言った。
ルークは牢のなかで一連のやり取りを見ていた。カイザーと神官(シロ)とのやり取りが気に食わない。神官の態度が気安い気がする……。しかし、ルークは態度に出さないようにカイザーに問いかけた。
「カイザー様どうでした?」ルークは言った。
カイザーは口元に指をあてる。ルークは口をつぐむ。“黙っていろ”の合図だ。
ルークはカイザーがあの神官(シロ)を警戒しているように感じられた。
シロは隣で椅子に座ったらしい。本を読む音がする。
カイザーはルークに話かける。
「ルーク、どうやらまずいことになった」カイザーは言った。
言葉とは裏腹にカイザーの顔に焦りはない。
ルークはカイザーが演技をしているのだろうと判断した。
あのシロという男にニセ情報を流すのだと合点がいく。ルークはカイザーに合わせる。
「カイザー様、どうなさったんですか?」ルークは言った。
ルークは自分の棒読みに悲しくなる。“こんな大根演技でも大丈夫だろうか“ルークは思った。
カイザーがうなずいてくれた。ルークはこれでいいと信じることにする。なるようになれ。
「すまない、わたしのミスだ。わたしがあのサイクロプスを召喚したことにされてしまったのだ」カイザーは言った。
ルークは思わず素が出てしまう。
「え?なんでそんなことになるんですか!サイクロプスを倒したのはわれわれですよ」ルークは言った。
ルークは演技を忘れて本気で怒っていた。カイザーは狙い通りだと、内心でうなずく。ルークの性格では演技はできない。ルークには申し訳ないが、ここでは利用させてもらうことにする。カイザーは続ける。
「たぶんなにがしかの策略にのまれているんだろう。証拠もでっち上げられていたようで、だいぶわれわれは苦しい」カイザーは言った。
「そんなことがありますか!」ルークは言った。
ルークは頭に来ていた。命を懸けて街を守ったのだ。その自分たちの功績をたたえずに、黒幕として扱おうなんて許せない。ルークは、鉄格子を破壊しようと魔力を貯める。鉄が熱を帯びる。
そのルークの手をカイザーは掴む。
「やめろルーク。誤解はいずれ解ける。われわれはただブレイブにのみ忠実であればいい」カイザーは言った。
ルークは理解できなかった。“このままではカイザー様の勇者の資格がはく奪されてしまう……”ルークは思った。
ちょっと待てよ、はく奪……?ルークがそこに違和感を覚えた時に、コツコツと階段を下りる音がした。
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