第33話
カイザー異端審問
カイザーは神官たちに囲まれていた。友好的な空気ではない。その証拠にカイザーは腕を縛られていた。
何度か自身の待遇について抗議をしてみたがまるで取り合ってもらえなかった。
神官長はカイザーを見下ろす。
その眼はドロドロに濁った下水のようだった。少なくともカイザーにとっていいことはなさそうだった。
神官長は口を開く。
「勇者カイザー殿、はじめまして。誠に申し訳ないのですがあなたはいま、危険な状況にいます」神官長は言った。
“『誠に申し訳ない』とは全く思っていない口ぶりだな……”カイザーは思った。
カイザーは神官長を見ながら口を開く。
「私はまがりなりにも勇者です。こんな無礼な目に合わせていいのですか?それも教会が」カイザーは言った。カイザーもちょっと苛ついていた。答えがぶっきらぼうになる。
カイザーを無視して、神官長は続ける。
「あなたが闇の魔術で、サイクロプスを召喚したことはわかっているのです。善意の情報提供者がいたんですよ」神官長はいった。
神官長が手をかざすと、壁に映像が映し出された。宿屋でルシファーがサイクロプスを召喚するところだった。ルシファーと一緒にいるカイザーもばっちり映されている。
まさしく動かぬ証拠だった。
“人払いの魔法はかけていたはずだが……”カイザーは疑問に思った。誰がこれを撮ったのか……。
神官長があざける。
「さぁ勇者カイザーこれをどうやって言い逃れしますか?あなたのお仲間があのサイクロプスを召喚したことに疑いはありません。勇者も堕落したものですね」神官長はいった。
“返す言葉もない”カイザーは思った。ルシファーが関わるといいことがないなぁ。カイザーはがっくりうなだれる。
「わたしはどうなりますか?」カイザーは言った。
“ばれてしまったものはしょうがない。ルシファーは一応、自分の部下だ。コントロールできなかった自分が悪い”カイザーは思った。
「勇者の資格はく奪でしょう。まぁ追って処分は決めさせてもらいますよ。あなたにはその前にやってもらうことがある」神官長はいった。
“やってもらう事……?”カイザーは思った。そのまま疑問を口に出す。
「やってもらうこととは何でしょうか?」カイザーは言った。
神官長は疑問には応えず、カイザーを鼻で笑った。
側に控えていた神官に命じる。
「そのものを牢へ戻せ」神官長は言った。
神官長はそのままカイザーを見ずに退出する。
側に控えていた神官がカイザーに話しかける。
「それでは勇者様、もどりましょう」神官は言った。
カイザーはその神官に戸惑った。ヘビの様に細い目をした、髪の毛も肌も真っ白だったからだ。その神官は応える。
「驚かせてしまってすみません……。自分“アルビノ”なんです」神官はいった。
「いや……こちらこそ驚いてしまってすまない。アルビノさんというんですか?」カイザーはいった。神官は笑った。
「ははは。違いますよ勇者様。わたしの名前はシロ。“アルビノ”というのは病気のことです。自分は生まれつき色素を持たないんです。唯一色があるのは真っ赤な瞳だけです」シロは言った。
シロはそういって瞳を見せてくれた。カイザーはその瞳に恐怖を覚えた。
“なんだこいつ……?”カイザーは思った。
魔王が恐怖を覚えることなど今までなかった。
“こいつはここで殺さなくてはマズイ”カイザーは思った。しかし、今のカイザーは無力だった。魔王の力は勇者の剣で封じられ、手錠をほどく力もない。
シロが目を閉じると、不思議なプレッシャーは消えた。シロは微笑む。
「というわけで、勇者様誠に申し訳ないのですが一緒に牢までついてきてくださるとうれしいです」シロは言った。
先ほどのおどろおどろしい瞳が嘘みたいに優しい少年だった。
カイザーは釈然としないまま牢屋に戻った。
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