第25話

カイザーバンブーアンダーの街


カイザーはエキドナが首尾よく姿を隠せたことを確認すると、街へ出た。

ギルドへ行ってみようと思ったからだ。


道行く人にギルドの場所を聞くと、先ほどの飲み屋の近くだった。

“なるほど、だからエキドナの飲み相手はあんなに素行の悪そうなやつらばかりだったわけだ”カイザーは納得した。


ギルドへの道の途中、生き物たちの視線を浴びていた。

どうやら、カイザーにも監視がついたらしい。

“これだけの動物を使役できるとなると、相手はテイマーだろう”カイザーは思った。

テイマーと言えば5代目勇者のマキガイが思い浮かぶ。

2mを超える巨体でありながらテイマーだった。

動植物、すべての生き物に慈愛を振り撒いた。大きな体に大きな心、そして余りあるブレイブ。その心の大きさに、魔物ですらマキガイになついた。

ダークドラゴンをテイムできたのは後にも先にもマキガイだけだった。

“あぁわたしも魔物だったらマキガイにテイムされただろうに……“カイザーは思った。


ギルドに入ると、カイザーは注目を浴びた。

ギルドと勇者の所属する神殿とは相性が悪い。


民間と国営と言えばピンとくるだろうか。

勇者はどこまで行っても、国の犬なのだ。そのことを揶揄する人も多い。

特に、ギルドに所属するようなやつらは国を嫌う。


カイザーの胸元のヒスイを見ると、冒険者たちは黙った。

“どえらい空気になってしまった……。まぁさっさと用事を済まそう”カイザーは思った。


ギルドの受付まで行くとお姉さんが対応してくれた。

さすがに受付は勇者であろうと丁寧に対応してくれた。


「はじめまして、勇者様。ここは神殿ではありません、さっさと帰ったらどうですか?」お姉さんは言った。


前言撤回。勇者に対する風当たりは酷いものだった。

「あぁすまない用事があるんだ。プラダという人に会いたい」カイザーはいった。

受付のお姉さんは露骨に嫌な顔をした。

カイザーにとってここまでの無礼な対応は初めてだった。勇者になって初めてのずさんな対応。逆にテンションが上がる。

「プラダに何の用ですか?くだらないことで呼ぶわけにはいかないんですよ。こっちも仕事なんで」お姉さんは言った。

カイザーは紹介状を見せる。お姉さんはそれを手に取ると、ビリビリと破いた。紹介状を丸めてごみ箱に捨てる。

「お帰り下さい」お姉さんは言った。


カイザーが驚きに目を見開いていると、偶然後ろのドアからプラダが出てきた。

プラダはカイザーを見ると寄ってきた。

「あ!勇者さま、来てくださったんですね。どうぞこちらへ」プラダは言った。

プラダはカイザーを自室へ案内する。


プラダは受付のお姉さんに言伝をする。

「あぁきみ、わるいけどお茶を用意してくれるか?こちらの方は命の恩人なんだ」プラダは言った。受付のお姉さんは天使みたいな笑顔で「かしこまりました」そう言った。



プラダの部屋に入って、ようやくカイザーは一息ついた。

プラダはカイザーの様子をみて苦笑する。

「あーその様子だとギルドの洗礼を受けたようですね」プラダは言った。

「あぁ、なぜギルドはここまで勇者を毛嫌いしているのか?」カイザーは言った。

そのとき扉を開いて受付のお姉さんが入ってきた。

お茶を置いていく。プラダの前では猫をかぶっているらしい。終始天使の微笑みを浮かべていた。お茶を出すとき、カイザーにしか聞こえない声で“調子乗ってんじゃねぇ”といった。

プラダはお茶を進めたが、カイザーは決して手に取らなかった。なにか不穏な気配を感じたからだ。プラダはギルドと神殿の関係について話してくれた。

「この街の神殿とギルドは特に仲が悪いんですよ」プラダはいった。

「何かあったんですか?」カイザーはいった。

そういいながらもカイザーはあたりを付ける。

“話の様子から、おそらくあの動物たちを使役しているのは神殿なんだろうな……”カイザーはおもった。

カイザーの読みは当たっていた。

「この街の神官はそこら中に監視の動物を放っているんですよ。神官長がまた陰気なやつで、人を信じないというか……。まぁきもいんですよ」プラダはいった。

その物言いに、カイザーは笑ってしまった。どうやら神殿はこの街では大層嫌われているらしい。


「だから、このギルド館内には監視の動物がいないんですね」カイザーはいった。

このギルド会館に入ってからというもの動物の気配は感じなかった。

「えぇ、ギルドに所属する奴らは基本的に監視きらいなんで、動物を見つけたらすぐ追い払うんですよ。……そういえば、今回はどういったご用件でしょうか?」プラダはいった。

プラダの顔が商売人の顔になる。

カイザーは思っていた疑問をぶつける。

「単刀直入に聞きます。昨日の積み荷の受け取り主を知りたい」カイザーはいった。

プラダは即答する。

「それはできません。守秘義務がありますので」プラダはいった。

「あの荷物には魔物が入っています。しかも危険なものが……。何かご存じではないですか?」カイザーはいった。

「私は商売人です、信用第一でやっておりますのでクライアントのことは何一つ申し上げることはできません」プラダはいった。そこでプラダはにっこり笑うと付け加えた。

「それ以外のことなら何でも答えますがね」プラダはいった。


“なるほど、商売人だな”カイザーはおもった。

「じゃあ一点だけお聞かせください。プラダさんって偉い人なんですか?」カイザーはいった。

プラダは破顔すると答えた。

「あぁ申し遅れました。わたしはこのギルド会館を管理するギルド長です」プラダはいった。

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