第24話

次の日


一夜明けて、一行は街へ向かうことに決めた。

「おし、サスケ案内頼むぞ」カイザーは言った。

サスケは背筋を正し、敬礼する。

「あいあいさー」サスケは言った。

“びしっ”という音が聞こえてくるようなきびきびした動きだった。

カイザーはその姿を見て苦笑する。

すかさずルークがツッコミを入れる。



街はすぐに見えてきた。

ユグドラシルよりも街は大きかった、城壁に囲まれた街。

名前を“バンブーアンダー”といった。


バンブーアンダーの街は、商業が盛んで多くの街と交流があるようだった。

ただし、街中に入るには門番の検閲を受けなければならない。

そこでサスケが異常に気付いた。

「あれ、昨日より門番の数が多い……」サスケが言った。

サスケは背丈を稼ぐためにルークの頭に乗った。さすがのバランス感覚だった。

「おいちび、いちいち人を足蹴にするな」ルークは言った。

サスケはルークを無視した。

「カイザー様どうします?」サスケは言った。

カイザーは考える。“勇者を疑うやつもいないだろう……”カイザーは思った。

「このまま並んでおけばいいよ。ただ視界を覗くはやめておこうか」カイザーは言った。

サスケがルークの頭から降りる。

「はーい」サスケは言った。


「とまれ。何か通行証はもっているか?」門番は言った。

カイザーは胸元のヒスイを掲げる。

「私は勇者だ、愚者の塔へ行くのにこの街へ寄らせていただきたい」カイザーは言った。

「あぁお疲れ様です。どうぞお通りください」門番は言った。

門を抜けるときカイザーは暇そうな門番に声をかける。

「バンブーアンダーはかなりセキュリティが厳しいですね。なにかあったのですか?」カイザーは言った。

「そうなんですよ、“教会”の方からお達しがあって……。私たちもよくわかっていないのですが、今日は普段より2倍の人員が割り当てられているんです」門番は言った。

「へーそれはお疲れ様です。なにか問題があればぜひ私も協力させてください」カイザーはいった。

「勇者様にそういっていただけると心強いです。ぜひお願いします」門番はいった。

カイザーは門番に別れを告げて、街へと入っていった。


そこでエキドナの魔力の信号を受け取る。


「おし、じゃあ自由時間にしよう。街を一通り見たらこの目の前の宿に集合しよう」カイザーはいった。

サスケははしゃぐ。

「やったー。カイザー様ありがとー」サスケはいった。

カイザーはサスケではなく、ルークに念を押す。

「ルークくん、ぜひ問題を起こさないように頼むよ」カイザーは言った。

「なんで俺に言うんですか……」ルークは言った。

カイザーは同じトーンで再び繰り返す。

「ルークくん、ぜひ問題を起こさないように頼むよ」カイザーは言った。

ルークは観念した。

「わかりました!私が責任をもってあのバカを監視します」ルークは言った。

カイザーはルークにこっそりお金を持たす。

今日くらいは好きに遊んできたらいい。カイザーは思った。


二人が行ってしまうと、カイザーはエキドナに呼び出された場所へ向かう。

そこは、街の酒場だった。


入るとテーブル席に散々酔っ払ったエキドナがいた。

顔は真っ赤で、テーブルにはジョッキの山が積まれている。

「あ!カイザー様、お帰りなさい」エキドナはいった。

エキドナの前には酔いつぶれた客が眠っている。

異様に酒臭かった。

「おまえ何していたんだ」カイザーは言った。

エキドナは高らかにジョッキを掲げる。

「情報収集ですよ、情報収集。やっぱりこういうのは酒場でやらないと」エキドナは言った。

さらに酒をあおる。

“こいつこんなに酒も強かったのか……”カイザーは思った。

良くよく観察してみれば、エキドナは魔法で酒精(アルコール)を中和していた。

“なるほど、仕事はしているようだな“カイザーは思った。

カイザーはあいているイスを持ってきて、エキドナの隣に座る。

「おれにもホットミルクをくれ」カイザーは言った。

「カイザー様ホットミルクなんて、子供の飲み物ですよ……。ビールにしませんか?」エキドナは言った。

「いや、勇者イサナは少しでも背丈を伸ばそうと牛乳を飲んでいた。わたしもそうするべきだろう」カイザーは言った。

少しでも勇者たちに近づきたい、その一心でカイザーは生きている。


酒場のおっちゃんが牛乳を運んできてくれた。それを乾杯する。

「カイザー様かんぱーい」エキドナは言った。

グラスをぶつけた瞬間に、エキドナの魔力が流れ込んでくる。


“カイザー様、わたしは監視を受けています”エキドナは言った。

エキドナはちらりと部屋の隅を見た。

ネズミがじっとこちらを見ている。カイザーの視線に気が付くと、ネズミはどこかへ走り去っていった。

“なるほどな、なにかしらの思惑が働いているらしい”カイザーは思った。

「カイザー様、これからどうしますか?わたしはまだ酒を飲んでいてもいいでしょうか?」エキドナは言った。

「いやお前はさすがに飲みすぎだ。われわれは金がないんだ。もう部屋に戻って大人しく休んでいてくれ、おっちゃん勘定を頼む」カイザーは言った。

おっちゃんが持ってきた伝票を見る。


“こんなものか、まぁ安いな”カイザーは思った。これだけの酒盛りをしたら魔王城では0が二けた違う。

会計を済ませるとエキドナを介抱しながら宿屋に向かった。


会計を済ませた時のおっちゃんの顔が気になったが、吹っ掛けられていたのかもしれない。もうすこし、人間界の相場について勉強する必要があるな。カイザーは思った。

カイザーはエキドナの髪の毛を一本道に捨てた。

エキドナは舌を噛んで絶命し、髪の毛をタネとして再生する。


“これで、しばらくは監視の目をごまかせるだろう”カイザーは思った。

カイザーはエキドナの死体を宿に隠した。


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