第21話


行商人のプラダは悪態をついていた。

「このくそ馬が!この荷物を早く届けないと大変なことになるんだよ」プラダは言った。

馬は悲しそうになくばかりで立ち上がることはない。

約束の時間は本日の夕方、まだ日が暮れるまでは時間がある。ただしこのまま馬が動けなければ商談はなかったことになる。商人としての名誉にかかわることだった。


プラダは傷ついた馬の足を見る。医者ではないプラダにはどうしようもなかった。

そこへ、カイザーがやってくる。


「だれだい?」プラダは言った。

護身用の銃に手を伸ばす。強盗の類だろうか。

プラダは行商人として相応の訓練を積んできている。ただで荷を渡してやるつもりはない。


「驚かせて済まない、わたしは勇者だ」カイザーはいった。

胸元のヒスイを掲げて見せる。

勇者のヒスイは特別な魔法がかかっていて、これを持つことができるのは勇者だけだった。

偽証は不可能。身分証として大変便利なものである。


プラダはヒスイを確認すると銃を下した。

「これは勇者様失礼しました。わたしは行商人のプラダといいます」プラダは言った。

カイザーは仲間とともに、プラダのそばまで来た。それぞれが自己紹介をする。

一通り挨拶がすむと、カイザーが声をかける。

「ところでプラダさん、見たところトラブルのようですが、我々にできる事はありますか?」カイザーは言った。

プラダは渡りに船とばかりに飛びつく。

「これはどうも。実は馬がけがをしてしまって、荷を運べないのです。勇者様、回復魔補法などはお持ちではないでしょうか?」プラダは言った。

「ふむ。お任せください。プラダさん、わたしのパーティー申請を受けてくれますか?」カイザーは言った。

プラダはけげんに思いながらもパーティー申請を受ける。

「ありがとうございます」カイザーは言った。

カイザーは地面に勇者の剣を突き刺す。

見る見るうちに馬の傷がふさがっていく。プラダは驚いた。

馬は立ち上がって、いなないた。“これなら走れる”プラダは思った。

「勇者様ありがとうございます」プラダは言った。


プラダは急いで出発の準備をした。これなら夕方までには町まで着けそうだった。

「勇者様ありがとうございます、良ければこちらの証書をお受け取り下さい」プラダは言った。プラダは一筆書いた紙を渡す。

カイザーは受け取った。

「こちらは何ですか?」カイザーは言った。

ギルダは答える。

「これはわたしが所属するギルドの紹介状です。なにか困ったことがあればこちらをギルドに見せてくれれば、きっと力になってくれますよ」ギルダはいった。

「それはありがたい。ちなみにプラダさん、こちらの荷物は何をはこんでいますか?」カイザーは言った。

「実はわたしにもわからないのです、依頼者からは荷の内容については追及しないように書かれていました。こういう仕事もあるんですよ」プラダは言った。

「そうですか、それではお気をつけて」カイザーは言った。

プラダはお礼を言うと、馬車を走らせた。

馬は名残惜しそうにカイザーの方を一度だけ振りむいた。

そして、走り出す。


プラダは、サスケとエキドナが荷の中にこっそり忍び込んだことに気付かなかった。



プラダの姿が見えなくなるとルークはカイザーに声をかけた。

「カイザー様、なぜサスケを馬車に忍び込ませたのですか?」ルークは言った。

ルークはサスケと離れ離れになったことに不服だった。

カイザーは笑った。

「あの馬車が積んでいるのが魔物だったからだ」カイザーは言った。


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