第20話
ベルウッドの村の近くのイサナの石像
カイザーたちは村の近くの森に来ていた。
勇者イサナの石像を見るためだった。
石像はベルウッド村の人々に大切にされていたらしく、きれいに管理されていた。
カイザーはもってきた花を供える。エキドナが言うにはこれが人間の習慣らしい。
イサナもこの村に来ていた。そのことが、カイザーの胸を温かくする。
カイザーが花を添えると、ルークとサスケがそれに続いた。
二人も摘んできた花を供える。
ルークが口を開いた。
「村に伝わる伝承だと、イサナはこの山に住んでいたドラゴンを倒したそうです。ドラゴンは知性が高く、人間を苦しめていたそうですよ。イサナは勇者のたびに出たばかりで実力もなかった。それなのに、ぼろぼろになりながらもドラゴンと戦ってくれたんです。イサナがいてくれるから僕らの村は今日まで続いたそうです」ルークは言った。
カイザーは感動した。
イサナのパラメータでは、きっとドラゴンは倒せない敵だったはず。それでも勇敢に挑む姿にブレイブがある。
カイザーにとって、勇者イサナはいつまでもあこがれの対象だった。その生き方に心惹かれる。
カイザーは背筋を正した。
「二人ともいこうか」カイザーは言った。
ルークもサスケもうなずいた。
サスケがパーティーに加わったので、近くの山の中で連携を確認する。
魔王カイザーの勇者の剣は、サスケにも力を与えた。
サスケのパラメータの上昇もあったが、一番の成果は“影移動”だった。勇者の剣展開中であれば、カイザーやルークの味方の影の中を自在に移動できるのだ。
ルークの影の中に潜みながら一撃で敵を仕留めるスタイルがよさそうだ。カイザーはひとりうなずく。
そうやって、作戦を立てている間に神殿から次の依頼が来た。
“北へ向かって愚者の塔から賢者を救え”そう書かれていた。
ユグドラシルからの依頼はそれだけだった。
カイザーは前を行く二人を眺めながら考える。
“愚者の塔ってたしか、ルシファーの管轄だったよな……”カイザーは思った。カイザーは気まぐれ堕天使の顔を思いうかべる。溜め息がでた。
妖精姿のエキドナが寄ってくる。
「カイザー様、やっぱり行きたくないですか」エキドナは言った。
「あぁ、あんまり会いたい相手ではないな」カイザーは言った。
「ルシファーは何を考えているかよくわからないですよね。わたし聞いたことなかったのですが、いつからルシファーは魔王様のそばにいたんですか?」エキドナは言った。
カイザーは考える。しかし思いだせない……。思い出せるのは気づいたらカイザーのそばにルシファーがいたことだけだった。
“これは記憶の改ざんを受けているな……。神かルシファーかどっちかだな”カイザーは思った。
思い出そうとすると嫌な気分になることから、どうやら神になにかを押し付けられたのだと推定する。
エキドナを安心させるためにカイザーは笑う。
「エキドナ。心配ない、いざとなったらエキドナに頼るから」カイザーは言った。
「承知しました。わたしもルシファーと一度本気で戦ってみたかったんですよね」エキドナはいった。
カイザーは頭の中でシミュレーションしてみる。エキドナとルシファーどっちが勝つだろうか。エキドナは死なないということに特化した魔女だ。カイザーでも殺しきることが難しい。髪の毛一本でもこの世に残っていたらエキドナは再生する。エキドナがえぐり取られた目玉から再生したときは肝を冷やした。
ルシファーは……。そういえばきちんと戦ったことがないか……?このあたりも記憶がおかしい、どうやら強烈な思考操作を受けているらしい。神のやる事は分からん。
そう考えると、神の機神兵だったゴーリーは扱いやすい。意思があるとはいえもともとは石だ。わたしのいう事をなんでも聞いてくれる。魔王業務も大変だろうが頑張ってくれ……。
カイザーがぼんやりと考え事をしているとルークが立ち止まっていた。
サスケが何かを見つけたらしい。
「なにかあるのか?」カイザーは言った。
サスケが注意深く目を凝らしながら、カイザーに忠告する。
「カイザー様、どうやら行商人が困っているようです」サスケは言った。
サスケが指さした方を見ると、馬車が立ち往生をしていた。
どうやら馬が脚を痛めてしまったらしい。
「助けに行こう、われわれは勇者だ」カイザーは言った。
「そうしましょう」サスケは言った。
サスケは嬉しそうに笑った。
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