第18話

カイザー廃城


カイザーの魔力が廃城にいきわたった。

全ての魔法陣を飲み込んで、ねじ切り、消去した。

ちょうど、人造人間がルークに倒されたのと同じタイミングだった。


男は研究所で震えていた。

“なにかヤバいことが起きている”男は思った。


視界がすべて影で塗りつぶされていた。

「おい!魔女、なにが起きている」男は言った。

魔女エキドナは暗がりの中で声を出さずに笑った。

“わたしだってわからない。魔王様が何をたくらんでいるかなんて”エキドナは思った。

エキドナは魔王の側近を務めてきたが、それはひとえにエキドナが死ななかったからだ。魔王様の力は敵味方を区別しない。ただ蹂躙する。



広がる闇のなかで、ほのかに燐光が生まれた。青白いそれは、蝶のようにひらひらとあたりを待った。銀河のようににわかに周囲が燐光で明るく輝く。蝶の一匹がエキドナに触れた。

エキドナの指がポロリと剥がれ落ちる。エキドナの内側からイモムシがずるりとはい出た。

“あぁ今回はそういう感じ”エキドナは思った。

エキドナは腕を引きちぎると、その場に捨てた。ちぎった腕からは2,3匹のイモムシが発生してさなぎになった。


エキドナが男の方を見ると、男はすでに蝶にとらえられていた。

「おい、助けてくれ。おれの体が……どうなっているんだ」男は言った。

男の体は、頭部を残してイモムシに食べられていた。


男は泣いていた。

「おい、魔女。俺はどうなっているんだ?どうして、なぁなにか大事なものが減っているみたいだ」男は言った。

エキドナは男の頭部に蝶が群がっているのを見た。

蝶たちは蜜をすするように男の頭を吸っていた。

“あぁそのためにイモムシさんたちは頭部を残していたのね”エキドナは思った。

蝶たちは食事を終えると、満足そうに飛び回った。

鱗粉が舞い、さながら銀河のように渦巻いていた。


男の思い出が吸われつくす前に男は死んだ。

死体はイモムシに食われた。

男が最後に見たのは、愛した娘の笑顔だった。

あの子が生まれた時、その弱い手に触れた時、守りたいと思った。

自分の夢や研究を捨ててでもあの子を守るのが使命だと感じた。

その思い出も蝶に吸われていった。


エキドナが気づいたときには元の廃城に戻っていた。

カイザーはちぎられた腕ごと勇者の剣を装着する。

「お疲れ様です」エキドナは言った。

「お。エキドナ今回はほぼノーダメージか。つよくなったな」カイザーは言った。

「おほめいただき光栄でございます。久しぶりに元の力で戦った感想はどうですか?」エキドナは言った。

エキドナもちぎれた腕を再生する。

「やっぱり勇者の戦い方にあこがれるな。今回は特例。もう魔王の力はやらないよ」カイザーは言った。

魔力を使ってハイになっているのか、普段よりも言葉遣いが若い。

「ルークの方も終わったみたいですよ。だいぶ盛り上がったようです」エキドナは言った。

エキドナは画面を見せる。そこには、サスケを抱きしめるルークの姿があった。

「よし、これで忍者をゲットだな」カイザーは言った。

「そこですか」エキドナは言った。



エキドナは疑問に思っていたことを口にする。

「魔王様、今回の魔法陣ですが人間が本当に作ったのでしょうか……?あの男にそこまでの能力があるとは思えませんでしたが」エキドナは言った。

男の執念は見事だったが、あの魔法陣の完成度と比べるとちぐはぐな印象を受けた。

カイザーはうなずいた。

「いま取り込んだ魔法陣の解析をしているが、いかんせん勇者の剣があると解析が難しいな……。またわかったら教える」カイザーは言った。

エキドナは恭しく頭を下げる。

「おおせのとおりに」エキドナは言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る