第17話

ルーク村の近くの森


ルークは森を駆け抜けた。

子どものころから見知った森を走る。足がもつれて転びそうになるが、体勢を立て直す。

内心で毒づく。“もっと日頃から鍛えておくべきだった”ルークは思った。

前方を飛ぶホムンクルスは、ヤマネコかキツネザルのように枝を飛ぶ。

進むべき方向にはベルウッドの村があった。そしてサスケも。


スピードはホムンクルスの方が早かった。地上ではルークは思ったように走れなかった。

“このままでは、先にたどり着かれてしまう”ルークは思った。


ルークが村に到着したとき、不気味なほどに村は静かだった。

夜も更けていて、月がぼんやりと浮かんでいた。

どこかでフクロウが鳴く。


ばっちゃの家にルークは飛び込む。靴を脱がずに長い廊下を走る。小さいころ遊びに来た時と全く変わっていない。一番奥がサスケの部屋だ。

障子をけ破って、サスケの部屋に入る。

部屋の中には、布団の殻だけがあった。そこで寝ていた誰かを無理やり引きずり出したようだった。

ぴちゃんぴちゃんと水滴が落ちる音がした。

音は廊下の方から聞こえた。

「サスケ!どこだ」ルークは言った。

ルークは水の音を頼りに部屋を出る。


音の発生源は中庭だった。

「ルーク助けて」サスケの声がした。ルークは庭に飛び込んだ。

滴音は庭のこけおどしから聞こえていた。

サスケが両手両足を縛られて転がされていた。

“ホムンクルスはどこへ行った?”ルークは思った。

周囲を警戒しつつ、サスケの拘束を解く。

「サスケ?なにか化物みたいなやつがこなかったか?」ルークは聞く。

「よくわかんないんだけど、何かがわたしをここに連れてきたみたい。暗くてよく見えなかった。なにが起きているの?」サスケはいった。

「サスケ、心配しなくていい。俺がついている」ルークは言った。

ルークはサスケの髪が不自然に濡れているのを見逃した。サスケの爪が細くとがる。

「ありがとう、頼りになるのね。ルーク大好き」サスケは言った。

ルークは振り返る。サスケはそんなこと絶対に言わないからだ。

サスケに変身したホムンクルスは、いまにもルークを串刺しにしようとしていた。

邪悪な笑みを浮かべる。

ルークは舌打ちする。

“しまった、こいつがホムンクルスだ”ルークは焦った。

迫りくる爪に対してルークは急所をかばう。


その爪を飛来した礫がはじいた。間一髪ルークは助かる。

「ルーク!わたしが来たからにはもう安心よ。やっておしまい」サスケは言った。

ルークは苦笑した“やっておしまいっていつ時代のセリフだよ”ルークは思った。


あれは間違いなくサスケだ。あんなセリフはサスケ以外言わない。


ルークが安堵したときに、ルークの中の眠れる才能の引き出しが空いた。

ルークの剣が燃え上がる。魔法:火炎剣だった。


爆炎が上がる。ホムンクルスが一瞬ひるむ。その瞬間を見逃さず、ルークはホムンクルスを真っ二つに切断した。

炎はコブラのようにホムンクルスにかみつくと、そのまま全身を炭化するまで焼き尽くした。


ホムンクルスは消滅した。悲しい瞳は炎の中に残った。照り返しがルークを責めるようだった。


サスケは屋根から降りた。

「ルーク。その燃える剣めちゃめちゃかっこいいね!」サスケは言った。

ルークはサスケを思いっきり抱きしめた。

「無事でよかった。お前が殺されるかと思うと僕は怖くて……」ルークは言った。

ルークは半泣きだった。

その表情をみて、サスケはルークの背中を優しくあやすように叩く。

「ルークはいつまでも泣き虫ルークだなぁ」サスケは言った。

「うるせぇ。ないてねぇよ」ルークは言った。

「あはは」サスケは笑った。

「それよりサスケ!お前どこにいたんだ。心配したんだぞ」ルークは言った。

サスケは種明かしをする。

「ルークたちが心配でうまく寝付けなくてね、そしたら化物がやってくるじゃん。あわてて天井裏に隠れて様子を見ていたら、化物どっか行ったんだよね。そしたら、ルークもわたしの部屋に飛び込んできてね。わたし出るタイミングのがしちゃったんだよ」サスケは言った。


つまり、ルークが必死で飛び込んだ姿をばっちりサスケに見られていたという事だった。

ルークは恥ずかしくて死にたかった。

「なんですぐに名乗りを上げなかった?黙っていた?」ルークは言った。

ホムンクルスが偽物だと気づいていたら、教えてほしかった。


「ピンチの時に助けたほうがわたしがかっこいいじゃん」サスケは言った。

あはは、と豪快に笑う。

ルークは気が抜けてしまった。“あんなに心配をしたのに”ルークは思った。

だから思わずルークは口にしてしまった。

「ねぇサスケ。結婚しよう」ルークは言った。

ルークの瞳の奥で誕生したばかりのブレイブが揺れる。


サスケは戸惑った。

「ルーク、なにをいっているの?」サスケは言った。

「おれは本気だ」ルークは言った。

「ねぇルーク。ルークならわかるでしょ。わたしは待っているの、いつか必ずわたしを探しに来てくれるおとうさん、おかあさんのこと」サスケは言った。

ルークはサスケが1まわり小さくなったように感じていた。雲間にかろうじて見える満月のように、淡くなってしまった。

「わかっている。だから、探しに行こう。俺もサスケの両親に会いたいしさ」ルークは言った。サスケの顔は見ない。

「一緒に旅に出よう、いろんなところを歩いてさ。探しに行こう。猿飛サスケなんてヘンテコな名前を付けるくらいだからきっと、ヘンテコな場所にいるよ」ルークはいった。

「……うん」サスケは言った。

「サスケの親にあったら二人で話しをしよう。俺もサスケがどんなふうに育ったかを伝えるよ。底なし沼でおぼれかけたこととか、ヘビの抜け殻であそんだこととか」ルークは言った。

「…………うん」サスケは言った。

「そしたら、両親に僕はプロポーズする『娘さんを僕にください』って。2,3発なら殴られてもいい」ルークは言った。

「………………うん」サスケは言った。

「だからプロポーズの答えはその時でいいから。一緒に旅に出よう」ルークは言った。

「うん」サスケは言った。


その姿をばっちりエキドナは撮影していた。

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