第15話

そのとき、ルークの瞳の奥でブレイブの灯が揺らめいた。だれにもわからないブレイブの誕生。その瞬間にカイザーの勇者の剣が、ルークのブレイブに反応して鈍くきらめいたのを気づいたものはいなかった。


ルークはカイザーの片づけを手伝った。


消えたエキドナの反応を追いかけて、2人は通路にたどり着いた。

壁には肖像画が飾られていた。

この通路にたどり着いてから、一体のスケルトンも現れなかった。


ルークは張り切っていた。“この戦いが終わったら結婚するんだ”そんなことを考えていた。妄想はどこまでも膨らんでいった。魔力が溢れる。


ふと、ルークは通路の少女の姿と目が合う。この子どこかで見たことがある気がする……。ルークは考えてみたが、結局結論はでなかった。ただ、サスケとは違うタイプの女の子であることは間違いなかった。

“サスケがあんな格好していたら可愛いだろうなぁ”ルークはそんなことを考えていた。

敵も出ないし、ルークは壁の少女を見ながら歩いて行った。

愛らしい少女の笑みがどんどん狂気を増していく。

恐くなって目をそらした先にも、その少女の肖像画があった。


通路の奥、地下通路への階段の前になにかがいた。

ぴちゃぴちゃと髪の毛から水が滴る。


それは肖像画の女の子だった。絵と違って実体がある。

ルークはあわてて剣に手を伸ばす。

女の子は邪悪な笑みを浮かべていた。心に直接刺さるような声でルークに語り掛ける。

「ねぇルークさん。“サスケ”ちゃんっていうんだねその女の子。愛されていてうらやましいなぁ」少女は言った。

ルークはその声を聴いた瞬間に鳥肌が立った。心臓に爪を立てられるような不快な声、存在。

壁一面の肖像画からケラケラと音がする。

みれば、すべての少女の口元が笑顔になって、そこから笑い声が聞こえた。


「あー儀式が不完全なまま成ってしまったか……」カイザーが言った。

「カイザーさん、あれが“何”かわかるんですか?」ルークは言った。

ルークは恐ろしさと寒気で歯がカチカチとなった。

「儀式は種類にもよるが……。あれは人間を作ろうとした儀式だな。失敗したうえに、エキドナの一部を取り込んだせいで、不完全な形で復活したんだ」カイザーは言った。

「あれは人間なんですか?」ルークは言った。

ルークは少女から眼をそらせない。少女はニタニタと笑っていた。

「いや人造人間だ。元の素体に相当数の魂を混ぜたんだろう……。儀式では人間を作ることはできない、おそらく作った術者もしっぺ返しを受けているだろう」カイザーは言った。

カイザーは地面に勇者の剣を差す。

領域が展開されて、ルークの寒気がとまる。

少女はふらふらと揺れながら、爪をとがらせた。

人間ではありえない長さの爪。少女は猿のように唸り声をあげると壁を跳躍してきた。

“速い”ルークは思った。

とっさに剣で防ぐ。爪をはじくと、飴細工のように少女の腕が取れた。青い血が吹き出る。

少女は腕を抑えた。

「痛いよ、痛いよ、ルークくん。なんでそんなひどいことをするの?」少女はぼそぼそといった。周りの肖像画からもすすり泣く音が聞こえる。

“動揺するな、心を読まれるぞ”ルークは思った。

少女は訳の分からない角度で首をひねると、ルークを見た。

「わたしが、サスケちゃんじゃないからダメなんだよね」少女はいった。少女の腕が再生していく。

「じゃあ、わたしがサスケちゃんになればいいんだよね」少女は言った。

なにか嫌な予感がする。ごくりとルークは唾をのんだ。


周囲の絵画が“そうだよ。そうだよ”と囁く。ささやきは重なり合って大きくなり、やがてオーケストラのようにあたりに響き渡った。

少女は邪悪に笑った。


先ほどよりも早いスピードで少女はルークに襲い掛かった。

ルークはとっさに剣ではじく。

少女はその勢いを利用して走り去った。

カイザーが怒鳴る。

「ルーク追いかけろ。狙われているのはサスケだ」カイザーはいった。

肖像画はまたもニタニタ笑った。ルークをあざけるような声。

ルークはサスケのことを思った。

“サスケを守らなくては”ルークはとっさに走り出していた。

猿のように下品な声を追いかけた。



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