第13話

エキドナ廃城内


エキドナは城内を探索していた。

思ったよりこの城は、えげつない場所だった。


“やっぱりさ、魔物より人間の方が面白いと思うんだよね……”エキドナは思った。


壁に描かれた肖像画を眺める。

青いドレスをまとった少女の絵だ。それが通路中に飾られている。

ある少女は笑っていたり、ある少女はうつろな瞳だったり。背景も晴れの日の庭だったり、曇りの日の室内だったり。

共通しているのは、同じ少女であることと青いドレスであることだった。

通路を進むほど、いびつさは増していた。

壁中に隙間なく並べられた少女の絵は天井までも飾られていた。燭台以外は少女の顔しか目に入らない。


「そうとう、この子に思い入れがあるのね」エキドナは言った。

エキドナは指先で額縁をなぞる。指先にはほこりがついた。

やがて少女の顔に変化が現れた。笑い方が変わっていったのだ。

少女の中身が、天使から悪魔にグラデーションのように変わっていったようだった。

顔は天使のように愛らしいまま、内側が腐ってどろどろの液体になり、悪臭を放っていた。奥へと進むにつれて、隠しきれない邪悪さはその眼に現れた。どぶ川を煮詰めたような色の目だった。


その醜悪さが完成するころ、地下への階段が現れた。

どうやら、水の音はその奥からするらしい。エキドナは鼻歌を歌いながら降りて行った。

エキドナは妖精の姿から、魔女の姿に戻っていた。自分が愛する人間の姿。



エキドナは開けた場所に出た。

実験室だった。使われなくなって長いのか、木や蔦がはびこっていた。木の根も大蛇のようにうねっている。

その中央に少女が浮かんでいた。

少女は眠っていた。エキドナの目には死んでいるように見える。

少女の死体は、きれいに処理をされて腐らないように魔法を受けている。


“これが肖像画の少女か”エキドナは思った。

エキドナは少女が透明な棺に入っていることに気付いた。まるで標本の中の蝶のようだった、丁寧にピン止めされた腐らない蝶。それを準備した人物の異常さと執念にエキドナの心は高ぶる。


そして、木の幹や根の向こうに大量に放置された人間の死体を見つけた。どうやら、人間を素材にして魔術をしているらしい。死体を見れば立派な身なりをしている。ルークが言っていたパーティーの客だろう。


ピタピタ。水の音がエキドナに近づいてきた。どうやら“研究成果”を盗み見していたことに気付かれたらしい。

エキドナはぞくぞくした。一体どんな人間がそこにいるんだろう。

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