第12話

カイザー廃城


廃城にたどり着いたカイザーは何か魔法が完成する気配を感じ取った。

“なにか巨大な儀式が始まろうとしているのか”カイザーは思った。


ルークは怖いのか少し震えている。

初代トラフグの恰好で情けない姿はやめてほしかった。

「怖かったら帰っていいぞ」カイザーは言った。

「いえ、大丈夫です」ルークはいった。

ルークは震える指を隠した。


廃城は山の中腹にあった。

蔦が石壁にそって張り巡らされていた。蔦と競うように蜘蛛の巣も張り巡らされていて、まるで目の粗いセーターのように城を飾っていた。

ルークは意を決して城内に入る。

木の扉は腐っていて、容易に向こうが見えた。ドアノブを押せば、ドアノブが取れた。

ルークは扉をけ破る。

ほこりが宙を舞った。

そのとき、なにか嫌な予感をルークは感じた。水がぽたりぽたりと落ちる音。それと寒気。

「カイザーさんなにかおかしくないですか?」ルークは言った。

「……なにがだ?」カイザーは言った。

「いえ」ルークは言った。


カイザーの普段通りの様子を見て、ルークは困ってしまった。

この粘りつくような魔力をかんじないのだろうか?

ルークはカイザーを見る。


“これはヤバいかもしれない”カイザーは思った。思ったより、凶悪な儀式が行われているらしい。

カイザーはエキドナに耳打ちする。

「エキドナ、ちょっと調べてきてくれるか?」カイザーはいった。

「はいはーい。ちょっといろいろ見てきますね。なんだかお宝の予感」エキドナは言った。

そのまま廃城の奥へと消えていった。


エキドナが見えなくなると同時に、ルークの足元に甲冑の兜が転がってきた。

ルークは兜をけっ飛ばした。

“こういう怪しいものは距離をとるに限る”ルークは思った。

けっ飛ばした兜はスーパーボールのように通路を跳ね回った。

けたたましい笑い声が響き渡る。

声の主はスケルトンだった。通路の奥から呪われた骸骨がにたりにたりと歩いてきた。本来目玉があったはずの眼窩はタールでも零したかのように黒かった。

骸骨の戦士たちはぼんやりとオーラをまとっていた。

ルークはその異形に息をのむ。

骸骨は全部で10体ほど、武器を持ったものもいる

「さて、腕ならしというこうか」カイザーは剣を抜いた。



ケタケタ笑いながらスケルトンが襲い掛かってきた。

ルークは最小限の動きでかわして、自分の剣に魔力をこめる。

スケルトンの頭をフルスイングして粉砕する。残った体を蹴り飛ばし、後ろのスケルトンにぶつける。


“戦いなれているな……”カイザーは思った。このルークという男、戦いのセンスも経験もあるらしい。カイザーも自分の戦いに集中する。スケルトンなんぞ、まぁゴミみたいなものだ。

カイザーは自信満々に手をかける。勇者の剣を引き抜いたところ、その重みに耐えきれず派手に転んだ。

「え?」カイザーは言った。

「え?」ルークは言った。

空気が硬直する。カイザーはしりもちをついた姿勢で、ダンベルのようにおもい勇者の剣を見つめる。


カイザーは勇者の剣の刀身の色が変わっていることに気付いた。それは、漆黒のように黒くなっている……。そしてこの重量……。もしかして、わしなにかやらかした?カイザーは青ざめる。

カイザーの元にスケルトンが迫る。

カイザーの手から勇者の剣は離れない、カイザーは勇者の剣を軸にしたままアクロバティックな蹴りでスケルトンに応戦する。


「カイザーさん、大丈夫ですか?」ルークは言った。

「だめだ、剣が重くてうごかない」カイザーは言った。

カイザーは、スケルトンの攻撃を突き刺さった勇者の剣の影に隠れて回避する。


ルークがカイザーの助けに入る。

ルークが勇者の剣に近づいたときに、ルークは自分の力が溢れるのを感じた。

スケルトンをまとめて、蹴り飛ばす。

「カイザーさん、なんだか力が溢れてきます」ルークは言った。

カイザーも明らかにルークの動きが良くなったことに気付いていた。


二人はスケルトンたちを撃退した。

持ってきた干し肉を食べながら二人は話し合う。

勇者の剣は、スケルトンを倒した時点で引き抜くことができた。


「カイザーさんどういうことですか?」ルークは聞いた。

カイザーはルークが勇者の剣に選ばれた可能性も考えた。ルークに勇者の剣を引き抜かせてみても、引き抜くことができなかった。勇者の称号はまだ、カイザーのままだった。


「おそらく、この勇者の剣は味方の能力を上げる効果があるのだと思う」カイザーはいった。

戦闘中でなければ、やはり剣は軽いままだった。

「なるほど補助効果ですか。勇者の剣の能力としては珍しいですね」ルークはいった。

“確かにめずらしい”カイザーは思った。


歴代の勇者の剣を見ていくと、確かに所有者に応じて剣は変化した。

3代目イサナの剣は細く鋭かった。

10代目オルカの剣は、杖に近かった。



“わたしの剣はどうやらサポート系の能力らしい”カイザーは思った。

勇者の剣を見る。剣の刀身はいつも通りの鋼色に戻っていた。


「ルークくん、というわけで戦闘においてどうやら私は役立たずのようだ。どうしたものか」カイザーは言った。

ルークは先ほどの自分の能力アップで自信を持っていた。

あの魔力、あの力があれば、もしかしたらもっと先に行けそうだ。ルークは提案した。

「勇者様、わたしが戦いますのでもっと先へ行ってみませんか?」ルークは言った。

「そうか、手伝ってくれるなら助かる」カイザーは言った。


二人は、先を目指した。

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