第11話

ベルウッドの村


「ばっちゃ。帰ったぞー」ルークはいった。


カイザーとルークは2日間の旅を経て、無事村についた。

“家というよりは小屋だな”カイザーは思った。

村と呼べるほどの規模はなかった。数えられる程度の小屋が密集して一つの村となっていた。野生の動物や魔物に入られないように柵で囲っている。



二人は門から入った。門番も特にいなかった。


“こういう地図にも描かれない村がたくさんあるんだろうな”カイザーは思った。


村の中でも一番大きい小屋からゾウガメがでてきた。

「おう、ばっちゃひさしぶり」ルークは手を挙げた。



魔王であるカイザーには、人間のことは分からない。わからないが明らかにばっちゃは人間ではなかった。“なにか仙術を使っているのか……”カイザーは思った。

ゾウガメの背中からひょっこりおばあちゃんが顔を出した。

こちらがばっちゃの本体だった。


ばっちゃは一言「おかえり」とだけルークに言って、またゾウガメと一緒に奥に引っ込んだ。

沖へ帰るウミガメのようだった。

結局カイザーは無視された。


その背後からどたどたと騒がしい音がする。

「おかえりールーク」

誰かがルークに飛びついた。若い娘だった。

天真爛漫が服を着たらこんな感じかもしれない。

娘はルーク以外にも人がいることに気付くと慌ててルークから飛び降りた。


“この身のこなし、猿か?”カイザーは思った。


娘は慌ててお辞儀をする。

ルークが娘をカイザーに紹介する。

「カイザーさん紹介します。こちらが、“猿飛サスケ”です」ルークは言った。

次に、カイザーをサスケに紹介する。

「こちらが勇者カイザー様だ、失礼のないようにしろよ」ルークは言った。

ルークの言い方に、どこか二人の仲の良さを感じさせるものがあった。


サスケは元気よく応える。

「はじめまして勇者様。わたしは猿飛サスケ。サスケと呼んでください」サスケはいった。

「初めましてサスケさん。わたしはカイザーだ。勇者と呼んでくれ」カイザーはいった。カイザーは練習してきた勇者ポーズを決める。勇者イサナが好んだ、剣を垂直にかざすポーズだった。


サスケはカイザーの胸元のヒスイに目をやる。

「うちのルークは勇者ダメだったんですね。残念だったね」サスケは言った。

サスケはルークの頭を優しくたたく。


「お前が勝手に書類を送ったんだろ」ルークは言った。

ルークはサスケの手を振り払う。

サスケは気にもとめない。ルークを無視ししてカイザーに話しかける。


「それじゃあ二人は何をしに来たの?ルークが迷子にでもなりましたか」サスケは言った。

「なるわけないだろ。おまえちょっと向こうへ行って」ルークはいった。

ルークはサスケの背中を押す。

「カイザーさん何もない村ですが、ごゆっくり~」サスケは言った。

ルークはサスケを家の中へ押し込んだ。


「あのサスケという娘。もしかして“忍者”の末裔か?」カイザーは言った。

「えぇそうです。珍しい苗字ですからわかっちゃいますよね」ルークは言った。


カイザーが見たところ、サスケの“忍者”としての才能は申し分なかった。

身のこなしや、気配の使い方。彼女がいれば、こころ強い。


“しかもサスケはわしの魔力を警戒していた。無意識ではあるが、何かを感じ取る嗅覚が優れているのかもしれない”カイザーは思った。


カイザーはルークに提案する。

「サスケを勇者パーティーに誘ってみてはどうだろうか」カイザーは言った。


ルークは間髪入れなかった。

「だめです。サスケはこの村から出すわけにはいかないんです」ルークは言った。


「何か事情があるのか?」カイザーは言った。

ルークはそれには答えず、力なく笑った。


「それより、少し休んだら廃城へいきませんか?」ルークは言った。

「そうしようか」カイザーは言った。



ルークは「ちょっと腹ごしらえできるもの探してきますね」そう言ってどこかへ行った。


カイザーが一人になるとエキドナが話しかけてきた。

「魔王様。なにかロマンスの匂いがしませんか?あのルークとやら、サスケちゃんに惚れていますよ。絶対」エキドナは言った。

「そういうものなのか?人間の感情には疎くてな……わしはどうすればいい?」カイザーは言った。

ちなみに、エキドナの声は周囲には聞こえない。チャンネルをカイザーの魔力に絞っているからだ。便利なものである。


「ただあの“忍者”は惜しいな。歴代勇者でも“忍者”がいたのは初代トラフグのパーティーだけだった。忍者ノドグロ……。初代はパーティーにも恵まれていた」カイザーは言った。

カイザーの表情が熱っぽくなってきたのでエキドナは止めに入る。

ほおっておくと永遠としゃべりそうだった。


「そうですね、カイザー様。“忍者”ってそんなに優秀なんですか?わたしはまだ戦ったことないですが……」エキドナが言った。

「忍者は、魔法ではなく別の体系の術を使う。たしか忍術といったかな。厄介だぞ、魔力感知に引っかからない。それにおそらく肉体系のスキルを極めた先にあるんだろうな。あるいみ我々魔法をつかう魔物の天敵だろう」カイザーは言った。

「へーちょっと戦ってみたいですね」エキドナは言った。

「まだサスケは原石だろう。今のところはお前の方が強いよ」カイザーは言った。


ルークが戻ってきた。

その手には干し肉と黒パンが握られていた。

「カイザーさん、それじゃあ行きましょう」ルークは言った。


カイザーはうなずいた。


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