第9話
カイザー旅立ちの日
街のエントランス、コバルトブルーの空を鳥たちがわたる。
カイザーは勇者イサナセットを身にまとっていた。イサナの身軽さを殺さないための軽量な鎧。ただし、レプリカであるため本物のイナサのものよりは重い。イナサの鎧は、特殊な魔金属が使用されていた。あまりに希少素材のため、勇者の装備くらいにしか使われない。
たとえレプリカではあってもその装着感がカイザーの気分を高揚させた。
背中に収めた“勇者の剣”をとりだしてにやにやする。
勇者の剣は聖属性。闇属性の魔王には、呪いがかかる。カイザーは本来の実力の1%ほどしか出せそうになかった。
ただし、魂は燃えている。カイザーはじっとしていられなかった。
そこへルークがやってきた。
「勇者様おはようございます」ルークは言った。
「あぁおはよう」カイザーは言った。
そのカイザーの動きがとまる。
ルークは勇者トラフグの鎧に身を包んでいた。昨日ルークに渡したものだった。
一瞬カイザーの目には在りし日のトラフグの姿が浮かんだ。
おもわず目頭が熱くなる。
トラフグと先代魔王との一騎打ち。
当時一兵卒だったカイザーは幸運だった。
たまたま配属された場所から2人の戦いを見ることができたのだ。
トラフグは歴代勇者の中でも圧倒的な才能と魔力とブレイブがあった。
魔力量で魔王と渡り合えたのは、振り返ってもトラフグしかいない。
先代魔王の火炎系の魔法を、トラフグは“勇者の剣”で跳ね返した。
あんなでたらめな勇者は二度と現れていない。
「魔王様大丈夫ですかー?ルーク困っていますよ」エキドナは言った。
放心状態だった魔王は自分を取り戻す。
「あぁ、ルークすまない。ちょっと昔を思い出していたもので……」カイザーは言った。
ごまかすように、鎧についたごみを払う。
「カイザーさん、いくつですか……。僕と同い年ですよね、やたらしゃべり方がじじ臭いです……。それにしても二人でコスプレって結構恥ずかしいですね」ルークは言った。
「何一つ恥じることはない。われわれは勇者なのだから」カイザーは言った。
自信満々に言われると、なんだかそんな気がしてくるから不思議だ。ルークは背筋を正す。
「いきましょう」ルークは言った。
進路を南西にむける。しばらくは舗装された道を行けばいい。
立て看板を見つけたら森へ入る。
南西の山までは二日ほどかかるらしい。
南西の山についてカイザーはずっと悩んでいた“こんなところに魔物いたかなぁ”
魔王の時は、主要な都市にしか注意が向いていなかった。辺境の地の記憶があまりない。
道中ルークが語ってくれた。
南西の山には、今はもう使われていない城があるらしい。
かつては、風変わりな貴族が一人で住んでいた。
夜な夜な怪しいパーティーなどを催していたとのこと。周辺の村人は、誰もいないその山に人が集まるのが不思議だった。
噂が噂を呼び、いつのまにか貴族はいなくなり、城の中を魔物が跋扈するようになった。
いつからか、人はその魔物を貴族の成れの果てと呼ぶようになった。
「……というのが、僕が知っている城の話です」ルークはいった。
「ルーク、やたらくわしいな」カイザーは言った。
「僕はあの山のちかくの村から来たんです。ベルウッドの村っていうんですけど。カイザーさん良かったら、村によっていきませんか?どうせ、どこかで泊まるんですから」ルークは言った。
「しかしだな……」カイザーは言葉に詰まった。
“正直めんどうくさいな”カイザーは思った。ただ、ルークのせっかくの提案を無下に扱うのも気が引けた。勇者トラフグの鎧の影響が強いが、カイザーはこの若者を気に入っていた。
ルークはカイザーの葛藤を察知する、“あと一押しだな”
「実は、うちの村の近くに勇者イサナの石像が……」ルークは言いかけた。
「行こう」カイザーは言った。
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