第6話
カイザー@勇者の間
話は冒頭に戻る。勇者の間での最終試験だった。
勇者の剣が選んだのは、カイザーだった。
ルークには剣は引き抜けなかった。剣を掴んだ時に、自分が拒まれるのを感じた。
“納得がいかない”ルークは思った。
カイザーよりも自分の方が魔力量はあった。現に今、カイザーは剣を引き抜くことができたが表情から血の気は失せていた。みるからに無理をしている。剣を振るうだけの体力と魔力が足りていないのだ。
気丈にふるまってはいるが、ルークには強がりにしか見えなかった。
カイザーがふらついた。
カイザーは巫女になにか言われて立ち上がったが、それでも明らかに辛そうだった。ただひとつ気になることがあった。
カイザーの魔力が揺らぎ、たまに大きく上振れすることだ。
“魔力が安定しないのはわかるが、魔力が上がるのはおかしい”ルークは気になった。しかし、その疑問は放置した。
次いで出てきたのは、嫉妬の感情だった。
“俺が選ばれないのはおかしい”ルークは思った。
勇者の剣を装備しても魔力はカイザーよりルークの方が大きい。通年であれば、選ばれるのは自分のはず。ただし、騒ぎ立てるのは得策ではなかった。そこまでルークは考えなしではない。
納得はできなかったが、称賛の拍手を送った。
カイザーはルークが何かをやらかすのではないかと、警戒していた。
勇者の剣を装備するとき、カイザーは弱体化する。
カイザーが負けることがあるとすれば、この勇者の剣を装備する瞬間だった。
ルークがなにもしないのを見てほっとする。
“そもそも魔王が勇者の剣を引き抜けるとは思えなかったんだがな”カイザーは思った。
ブレイブという要素は、魔力や強さと違ってパラメータ上に現れるわけでも、外見からわかるものでもない。
勇者の剣に選ばれるかどうかでしか計れない。
“デバフ効果はすさまじいものがある”カイザーは勇者の剣を見る。
自身のステータスを確認すると、すべての能力値:筋力、敏捷、魔力、体力、防御が落ちていた。魔王の時に使えていたスキルも使えなくなっていた。
だが、それが魔王カイザーの望んだことだった。後悔はない。
勇者の剣は、カイザーの手になじんだ。魔王にとっては呪いの装備。一生解除されることはない。
勇者の剣を装備しながらカイザーはにやにやしていた。
大神官が告げる。
「勇者カイザーよ、さっそくわが街の南西の山に住み着く魔物を退治してくれ」
カイザーは違和感を覚える。
“この街の近くに、魔物なんていたか?”カイザーは思った。
エキドナが耳打ちしてくれる。
「この辺りは、魔王の支配圏からは遠いのでもしかしたら、野良や一部の魔物が暴走しているのかもしれません」エキドナは言った。
カイザーはうなずく。
“まぁ勇者の剣を試すチャンスではあるか”カイザーは思った。
「神官様、かしこまりました。わたしにお任せください」カイザーは言った。
「うむ、頼むぞ」大神官はいった。
そこへルークが声を上げた。
「わたしは勇者にはなれませんでしたが、この街のお役に立ちたいのは本当です。ぜひ、わたしも一緒に連れて行ってはくれませんか?」ルークは言った。
大神官はルークを見た。
「ふむ。それはわたしが決めることではない、どうだろう。勇者カイザーよ。彼は魔力も高い。きっと戦いでお役に立つかと」大神官は言った。
カイザーは考える。
“正直いらない”カイザーは思った。
ただ、この場で断るのは外聞が悪い。
“コイツ殺しますか?”エキドナが耳打ちした。
それをカイザーは手で制する。
「ルークさん。その心とてもありがたい。ぜひ一緒に魔物を討伐しましょう」
カイザーは言った。
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