第5話

ルークは自分が合格した通知をユグドラシルの飯屋で受け取った。

“まぁ当然の結果だよな”ルークは思った。

自分に自信があるわけでなく、ひいき目に見ても他の志願者たちが弱かったからだ。まともなやつがあまりいなかった。

魔力がないならわかる。魔力は才能だからだ。2,3人服を着てないのもいた。あまりにも当然のように服を着ていないので、服を着ている自分が間違えているのかと思った。

そういう作戦だったのかもしれない。



ルークは特段勇者になりたいわけではなかった。自分にたまたま魔法の才能があることは分かっていたが、それでなにかをしようとは思わない。ゆくゆくは、親父の仕事(畑仕事)でもついでのんびり暮らしていこうと思っていた。

しかし、幼馴染が勝手に書類を送った。

「ルークは魔法の才能あるんだから、いけるよ」幼馴染は言った。

ルークは小さいころからこの幼馴染のいう事には逆らえなかった。

小さいころ、ルークをいじめっこからかばってくれたことと関係しているのかもしれない。

実はほんのちょっぴり、勇者に興味もあった。だから、いま王都ユグドラシルにいる。

ルークは残ったスープを飲み干した。



試験は首尾よく進んだ。

面接も多少は緊張したが、拍子抜けするほどあっさり終わった。

他の応募者にも警戒するようなやつは一人もいなかった。

全裸のやつらは追い返されていた。一緒に脱がなくて本当に良かった。幼馴染が「勇者には水着審査がある」といったことも冗談だったらしい。

応募者の顔を思い返す。

“いや警戒する奴は一人いたか”ルークは思い返す。


勇者イサナのコスプレをした男が一人いた。頭がおかしいのか真面目なのか判断がつかない男だった。年齢はルークと同じくらいだろうか。名前だけは立派にも『カイザー』といった。

親にひどい名前を付けられたと言っていたのを思い出す。


“まぁでも彼には無理だろう”ルークは思った。明らかに魔力の量が少なすぎる。

ルークはカイザーの魔力を見極めることができなかった。

それはカイザーの魔力コントロールが並外れていることを意味した。魔王カイザーともなれば、パラメータの魔力量をごまかすことなど簡単だった。



ルークはそんな事にも気づかずに自分が勇者になってのらりくらりと生きていくことを考えた。

“勇者って給料どのくらいもらえるのかな?適当に暮らして、いい感じのところで引退して俺も宿屋とか料理屋とか始めたいなぁ。痛いのはいやだし。いまどき魔王に挑むなんてそんな馬鹿なやつはいないよ”ルークは思った。


このときのルークは完全に、試験に受かった気でいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る