第3話

王都


応募した書類は無事一次試験をクリアした。勇者になろうとする人材が減っているというのは本当らしい。嘆かわしいことだ。一昔まえは、あれだけ勇者になりたい若者が多かったというのに。わしは将来の勇者候補をよく見に行ったけなぁ。

カイザーは独りこぼした。


カイザーは王都までやってきていた。2次試験の面接を受けるためである。

隣には妖精に『変装』したエキドナがいる。見た目には光る虫と変わらない。


「魔王様、その恰好似合っていますね。まるで、3代目の勇者そっくりです」エキドナはいった。

「あ、わかる?わし、“勇者イナサ”の見た目が好きだったんだよね。結構手ごわかったし」カイザーは言った。思い返す。

あのときのイナサは本当に強かった。

勇者の剣に加えて、あのスピード。『神速のイナサ』の肩書は伊達じゃなかった。

初めは何の特徴もない勇者だと思った。イナサはそこからひたすら努力を重ねていった。こっそり森の影から見ていたわしは知っている。戦略も見事だった。成長するにつれてスピードに全振りをした。自身の強みであるスピードをひたすら鍛え上げたのだ。その速度は光の速さを超えて、勇者の剣もより細くより軽く変化していた。

とくに、わが配下魔人ヨヒトとの戦いは今でも記憶に残っている。

刺し違えてでも殺してやるという覚悟。度重なる連戦での消耗。そして、仲間の裏切り。わしはハラハラしながら、その姿を見ていた。


切断よりも刺突に最適化された姿。

その代わり攻撃を受けたら一発で死ぬ。スズメバチのような潔さ。惜しくもヨヒトに敗れてしまったが、わしは泣いていた。

今でも、彼の持っていたペンダントは魔王城に飾ってある。


「魔王様そろそろ、行きましょう。時間です」エキドナはいった。



面接会場には、5分前に入る。遅刻は論外。早すぎても先方の迷惑になる。

「次の方どうぞ」面接官に呼ばれた。

「はい!」カイザーは元気よく返事する。


面接では笑顔が一番。ハキハキと返事をして相手に好印象を残すようにする。

この日のために、何度も模擬面接を重ねた。

エキドナの人間族に対する知識が役に立った。

『面接の印象は初めの15秒で決まる』エキドナがくれたこの本を読みこんだ。

そして鏡の前で何度も練習をした。“小さなことをコツコツやる”歴代の勇者たちはみな隠れて努力をしていた。わしもそれに倣ったまで。



「ヌマズーからやってきました。カイザーです。魔王と同じ名前ですが、親が変わり者だったのでこんな名前にされました。困っています」カイザーは言った。


面接官から笑いがおこる。“いい感じだ。つかみはばっちり”カイザーは思う。

名前を印象付けるために、ユーモアを混ぜて話す。これで、名前を覚えてもらうことができた。


「ははは。面白いね、カイザー君。ちなみに、なぜ私たちの街を選んだかは教えてもらえるかな?」面接官は言った。

“その質問は想定内。志望動機はしっかりと練り込んである”。


「はい、王都ユグドラシルでは、交易が盛んですよね。わたしの村ヌマズーでもよく話題になります。とくに王都ユグドラシルのスローガン“力を合わせて街をよくしよう”その考え方につよくひかれました。わたしも、村の若頭として村の祭りを成功させたことがあります。その時身に付けたリーダーシップを活かしたいとかんがえます」よどみなく答えた。


“少し長すぎたか……。長すぎても印象はよくない”魔王は思った。


面接は残りの2,3の質問に回答して終りになった。


カイザーが焦ったのは一度、

“今まで何をしていたのですが?”という質問だった。

まさか、魔王をやっていたと話すわけにはいかないので、そこはごまかすしかなかった。

嘘をつくのは、むずかしい。面接官は人を見慣れている。

少しでも言葉に詰まればそこを追及してくる。


思い返すのは、10代目の勇者オルカだ。

彼は肉体にも魔力にも恵まれなかった。病弱であり、他の勇者のように前に出て戦うことができなかった。その代わりに、彼は本を読み、人と話すことで知識を蓄えた。


そこに、彼の詐術、弁論の才能が重なり。人を巻き込み、戦術で魔王群を苦しめた。


彼のことを思い出しながら、カイザーははったりをかました。

コツは、真実に少しの嘘を織り交ぜること。



カイザーは面接を乗り切り、無事に最終選考への切符を手にした。

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