第2話

数年前 魔王の間


話は遡ること数年前、魔王カイザーがまだ魔王をしていたころだった。

魔王は退屈していた。


「最近勇者来ないな」カイザーは言った。

「働き方改革、というのが行われたそうですよ。勇者たちが待遇改善をもとめてストライキを起こしたんですって」隣にいたエキドナが言った。

エキドナは魔女だ。カイザーの腹心でもある。人間族に興味があり、噂話などを収集している。変なやつだとは思うが、優秀だった。


エキドナが言った働き方改革とやらが気になった。

「勇者に待遇改善とかあるのか?」カイザーは言った。

「知らないですよ、きいたところによると近年は物資が高騰して装備が整えられないとか、そもそも勇者になる人自体が減っているみたいですよ。異世界転生してもみんな、料理人やら宿屋やらそっちの方が人気だそうです。SNSで映えるんですって」エキドナは言った。

エキドナはネイルに凝っているらしい。自身の爪をとってSNSにあげているとのこと。

「なっとらん」カイザーは言った。


カイザーが若いころの勇者たちはもっと違っていた。

SNSなどには精をださず、ひたすら自身を鍛え成長し、そして全力で私に挑んできていた。

いまでも思い出せるその鋼のような闘志。正義の心。その古き良き勇者スピリットをここで絶やすわけにはいかない。


「決めた。わし勇者になる」カイザーは言った。

エキドナはネイルをやめてカイザーの顔を見る。

カイザーの顔は本気だった。

エキドナは笑った。

「なにそれ、面白い」エキドナの目が輝いた。ちなみにエキドナの目は魔眼だ。見られると石化する。カイザーは足の小指の先から石化するのを感じた。

「じゃあ私、妖精やります。SNSでバズりそう。【元魔王だけど、勇者になってみた】とかたぶんいける」エキドナは言った。

彼女の頭の中でいくつかのプランが練りあがる。

“勇者っていったらまず、勇者の剣でしょ”エキドナが検索する。

「あ!これとかいい感じ『急募!勇者求む未経験でも勇者になれます』。ここなら勇者の剣に選ばれるだけでいいみたい」エキドナが言った。

「よし、じゃあすぐにいこう。『変装魔法』が得意なやつを手配してくれ、魔王業務はゴーレムのゴーリーあたりに任せればいいだろう」カイザーは立ち上がった。


歴戦の勇者たちの顔が浮かぶ。彼らは本当に偉大だった。もちろん、魔王の元まで到達できたものばかりではない。ただ、彼らの心の内には正義の信念があった。あれだけの恵まれない力、魔力でよくぞあれだけ強くあれたものだ。


“世界を救う”“魔王を倒す”


その思いの強さに、わしは共感したものだった。


「彼らの思いをわしが継ごう」

カイザーは言った。

「わしが勇者になる」

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