「だけど猫は鳴かぬまま」

 あなたは猫のような人でした。


 気まぐれで私を生かして、依存させて、不確かな優しさばかりを与えて。

 針の上に乗る硝子玉のように、それは曖昧なものだった。

 いつもは鞭のように冷たい。なのに時折くれる不明瞭な愛がすべて溶かしてしまった。


 そして、なにも言ってくれぬまま猫のようにぶらりと消えた。


 気まぐれに私を依存させたあなたは、気まぐれに私を手放した。

 私はもう、あなた無しでは生きていけぬというのに。

 あなたは私など無くても勇敢なのですね。


 気まぐれに教えてくれたペンの持ち方。

 気まぐれに教えてくれた箸の持ち方。

 気まぐれに教えてくれた近所の人との付き合い方。

 気まぐれに教えてくれた友達の作り方。


 あなたは死んでしまったのでしょうか。

 それとも、どこかでこれを見てくれているのでしょうか。

 否、こんな塵など認知すらしてくれないかも。


 ならば見せしめてあげましょう。

 あなたの気まぐれが、私の全ての生きる糧であり、栄養であり、原動力であると。

 世界中を巻き込んで起こした革命は、全てあなた一人の為であると。

 あなたをバカにし私を崇拝する愚民共よ。

 今こそその正義の斧を振りかざす時がやってきました。

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