第5話 いとちゃんの思い出(1)

「誕生日のプレゼントは何が良い?」

 来月はいとちゃんの誕生日です。お母さんが訊ねました。

 いとちゃんは朝ごはんを食べていた手を止めて、スプーンを器の中に置いて考えてみます。頭の中に何が浮かんでくるか、心の中にどんな気持ちが湧いてくるか、目を瞑ってじーっと自分自身を覗き込みました。お母さんもじーっと待っています。

「トランポリンが欲しいな」

 いとちゃんは答えました。去年の夏におじいちゃんとおばあちゃんと行った、こども園のことをふわぁ〜っと思い出したのです。そこには、たくさんのアスレチックやおもちゃがあり、たくさんのくもの子供達が歓声をあげながら遊んでいる楽しい場所でした。太いロープで編まれたネットが壁から天井に張り巡らされていました。子供達は6本の腕と2本の足で器用にネットを登り、天井にたどり着くと自分の糸を使ってぶら下がったりユラユラ揺れたりしていました。妹のみずちゃんはまだ小さくてネット登りは難しかったので、おばあちゃんとブロックやパズル、塗り絵などができるお部屋で遊んでいました。いとちゃんは、大好きなおじいちゃんと一緒に、様々なアスレチックのある大きな部屋で過ごしました。その中にとても大きなトランポリンがあって、いとちゃんは

 ぼよーん!ぼよーん!

と飛ぶのが楽しくて、何度も何度も繰り返し遊びました。おじいちゃんはトランポリンのそばに立って、いとちゃんが遊ぶ様子を優しい目をして見守っていました。高く飛び上がりながら

「おじいちゃーん!」

と呼ぶと、その度に

「おぉ、おぉ」と頷いてくれました。

 その時の満ち足りた気持ちが、いとちゃんの全身を包み、じんわり暖かくなって、うっとりした表情になりました。

 「トランポリンか。分かった、お父さんにも相談してみるね」

とお母さんは言ってくれました。


〜つづく〜

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