第5話 閑話 フィルメルン王国


「急げ! 宴の会場は準備出来てるか?」

「至急準備しております!」


 それにしてもだ! なぜこんな急に竜人国の王が、我が国に来る事になったのだ?


 視察だというが、過去にそんな前例は一度もなかった。

 一体何の視察だ?

 本当に意味が分からない……。


 我が国とは桁違いに格上の竜人国。広い領土を持ち魔力に優れている竜王が統治している国。

 今まで何度も招待したが、竜人が我が国を訪れることなど数回しかなかったのに。


 ましてや王が来る事など初めての事だ。

 我が国に一体……何が起こってるのだ……!


 国王と王太子の俺は、竜人国の使いから竜王が我が国に来訪されると連絡があってから、今まで寝ずに竜王を迎え入れる準備している。


 竜王様に無礼があってはならない。

 竜王様を怒らせる事が有れば、我が国など直ぐに消えてしまうだろう……。


 それほどに竜人と我ら人とは桁違いに住んでいる世界が違うのだ。



 ★★★




「ふぅむ? お前がフィルメルンの王子か?」


 美し過ぎる竜王が俺に問う。


「はい。レイモンド・フィルメルンと申します。竜王様」


 広間に招待した竜人たちが続々と中に入ると、一番最後に圧倒的なオーラを放つ男が入ってきた。一目で彼が竜王だと分かる。

 その男が目もくれず一直線に俺のところに歩いてきて話しかけてきた。


 ———なぜ竜王は王太子の俺に話を? 先ずは王では?


 王もどう対応したらいいのか分からず、呆然と立ち尽くしている。

 普通なら玉座にすわりドンと構えていればいいのだが、竜王相手にそうはいかない。土下座しろと言われればするしかないくらい我らは格下なのだから。


 そんな竜王が、フィルメルンの王をほったらかしにして俺に話しかけてくる。


「ククッ、お主がレイモンドか……お主には以前、国外追放した婚約者が居たのではないか?」

「えっ? 竜王様が何故それを? その女は酷い悪女で……ここに居る私の婚約者リリアを虐げていたのです」


 何故? 竜王様が悪女アリスティアの事を聞いてくるのだ?

 全く意味が分からない。

 そんなどうでもいい情報をなぜ知りたいのだ?


「悪女の証拠は何処に? お前の横にいる、その女を虐めただけで国外追放の処置? 酷すぎると思うがのう?』


「あっいや……その?」


 確かにそれだけで国外追放は酷い……!

 でも……ん? 何で? 分からない……いやでもアリスティアは酷い女で……?

 本当に? 


「竜王様、聞いて下さい! それだけでは無いのです。私はその女にもっと酷い事もされたのです!」


 俺が竜王の問いに返答に戸惑っていると、急にリリアが竜王と俺の会話に割って入ってきた。

 唐突にアリスティアからされた虐めを話すが、竜王の態度がおかしい。可愛いリリアの存在を無視するかのように相手に全くしていない。

 なんなら、こんなにも可愛いリリアを毛嫌いしている様にも思える。


「ふぅむ? おい女、俺に魅了魔法は効かないよ?」

「へっ? なっ何を!?」


 ———魅了魔法? 


 竜王は何を言っているのだ?

 魅了魔法と言われ、リリアの顔がみるみる青くなっていく。


「コレはサービスだ。お主達にかけられた魔法を特別に解いてやろう!!」

「えっ!? ちょっ、ちょっと待ってよ!」


 竜王の言葉を聞いたリリアが慌て出した。どうしたと言うのだ?

 必死に「やめて」と叫び懇願している。


 だが竜王は、慌てるリリアの事など目に入ってないようで、手をパチンと弾くと、次の瞬間キラキラと眩しい光が放たれた……。その光は広間全体に降り注ぎ、俺たちは光のシャワーを浴びているようだった。


 光が落ち着くと。


「ん? あれ?」

「なんだ……これは!?」

「嘘だろ!?」


 広間にいる人達がざわつき出した。

 俺のモヤモヤした頭は鮮明になり……⁉︎


 ———どう言う事だ!?


 何で俺はアリスティアを追放してしまったのだ!?

 意味が分からない!

 これまでにアリスティアにした行為が鮮明に思い出され……くうっ。

 どれも正気の沙汰とは思えず、手の震えが止まらない……俺は何て……事を……⁉︎


 俺がやっと冷静になった時には。


 竜王の姿はなく、側近の方達から不思議なブレスレットを貰った。


 その側近から、俺たちは魅了魔法にかかっていたと教えられた。

 更にこのブレスレットをしていれば、今後魅了魔法にはかからないと、貴重なブレスレットを貰った。


 俺は魅了魔法にかかっていたのだ……。

 

 一体……いつから?


 誰が俺に魅了魔法をかけたって?


 もう分かる。リリアだ。


 今後俺は……どれだけの後悔をするのだろう。





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