第3話「そうだ! 恋しよう!」ー2
翌日の下校時間、黒の送迎のロールスロイスで千金楽公園の前を通りがかると、そこには、あいの想い人の姿があった。たまに、彼に付き従っている“山田くん”っぽい顔をしたモブの姿も見当たらなかった。あいの心臓はどくどくと激しく音を立てた。
「ここで止めて頂戴!」
長年、あいの送迎をしてくれている運転手の“
「へっ? あいお嬢様、こんな所に何の御用で? あまり遅くなると、旦那様と奥様がご心配いたします故……あっしの独断では車をお停めすることができないのですが……」
あいは、隣に座っている執事の“
「あいの一生のお願いよ、玉じい! 輪廻眼様から告げられたことを知っているのは貴方しかいないの! ほんの少しの時間でいいの! 後生だから!」
あいの決死の覚悟を感じ取った玉じいは、銀縁の片眼鏡に右手を添えて暫し思案した。玉じいは、苦渋の決断をする際、決まってこのポーズをとる。
「10分……勘の鋭い旦那様に嘘の報告を申し上げるのには10分が限界でございます。もし10分経ってもお嬢様が戻られない場合は、お可哀想ですが、じいが強制的にお嬢様を連れ戻しに行きます。 さあ、行ってらっしゃいませ! ご武運をお祈り申し上げます!」
「ありがとう! 玉じい! 恩に着るわ!」
そう言って、あいは、ロールスロイスのドアを自らの手で開け、飛び跳ねるようにして、愛しい彼の元へ向かって行った。
ゼーハーゼーハー ヒッヒッフー ゼーハーゼーハー ヒッヒッフー
猛ダッシュで走ったあいの息は、運動不足のせいですぐに上がった。
彼は、そんなあいを心配そうな表情で見上げた。彼の側でゴロゴロと喉を鳴らしていた野良猫たちは、あいを不審人物だと思ったのか、背中の毛を逆立て、一斉にシャーシャーと威嚇し始めた。
「どうしたの? 僕に何かご用ですか?」
学ランのボタンを全開にし、中に “天上天下唯我独尊” とプリントされた真っ赤なヤンキーTシャツを着た彼は、優しく微笑みながら、あいに尋ねた。
「ね……ねこ……お好きなんですの?」
極度の緊張で声が裏返ってしまったあいを見て、彼は、思わず吹き出した。
「なんだ! 君もねこちゃんが好きなんだね! 撫でてみるかい?」
あいは、無言で頭を縦に大きく振った。彼が、ねこたちに向かって、パンっと両手を合わせて音を立てると、先ほどまで化け猫のように牙を向いていたねこたちの表情が一瞬にして和らぎ、砂場の上でゴロゴロし始めた。
「さあ、君! ここに座って! ねこちゃんたちと同じ目線で会話をするように接するんだ!」
そう言うと、彼は “天上天下唯我独尊” と赤の糸で刺繍がほどこされた黒のタオルをあいに差し出した。
「えっ?」
「これ使って! 君の制服汚れちゃうでしょう?」
「あ……ありがとうございます……」
あいの心の胸キュンバロメーターの針が振り切れた。
彼に言われたとおり、ねこちゃんと接すると、茶トラのねこちゃんは、目を細めゴロゴロと喉を鳴らした。
「この子は、君に対する警戒心を解いたみたいだよ。優しくナデナデしてあげて! 怖がらなくても大丈夫!」
あいは、彼に言われたとおり、ねこちゃんを優しくナデナデした。茶トラのねこちゃんは、あいの膝の上に乗っかってきた。
「か……可愛い!」
「だろ? 君、ねこちゃんと暮らしたことある?」
「いいえ……私のお家は、お父様がねこアレルギーで……」
そこまで言うと、突然、激しいくしゃみと鼻水があいを襲った。
「あと……
「君! それを早く言いなよ! もうっ!」
彼は、茶トラちゃんとあいを引き離そうとしたが、あいは、茶トラの子をギュッと抱きしめて離さなかった。今度は、喉がひゅーひゅーと鳴り始めた。
「君! 重度のねこアレルギーじゃないか! どうしてそこまでして……」
「
あいは、アレルギーで腫れあがった目で彼の目をジッと見つめた。
「えっ? 僕?」
彼は、突然の見知らぬ女子高生からの愛の告白に驚き、砂場に尻餅をついた。
「ずっと前から、貴方様に心惹かれておりましたの……申し遅れましたが、わ……
「うーん……こういうのって何だか照れるね……僕、中学からずっと男子校でさ……まあ、モテるヤツラは学校以外でも出逢いとかあるらしくて彼女いたりするみたいだけど、僕はイケメンでもないし、モテないから、今まで女の子と付き合ったりしたことなくて……」
あいは不安に駆られた。これはお断りされてしまうのかもしれない、と。
「僕、全然“付き合う”とかわからなくて、
あいは、喜びのあまり、天にも昇る気持ちになった。
「嗚呼!
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