私の推理

「嘘吐き」

「時には嘘も必要だよ」

「私の名前も知らないくせに」

「興味無い事は覚えられないんだ」


 やっぱり。


「ユータ」

「何?」

「あなたは成仏しないの?」

「そのうちね」

「ユ……ユータは、何でここで探偵をしようと思ったの?」

「…………引き寄せられた、気がした」

「――そう」


 ずっと、怖くて聞けなかったことがある。

 聞いたらユータは消えてしまうかもしれない。だから、怖くて聞けなかった。


「私の名前は串田比奈子」

「偶然だね。それとも自然と目に入って覚えていたのかな」

「そうだね」

「君はよく教科書を出しっぱなしにして寝るから」

「うん。でもまだある」

「そうか」

「私は小さい頃迷子になった。家まで送ってくれると言ってくれたお兄さんは帰ってこなかったけれど、幼なじみの雄介が迎えに来てくれて、家に帰れた」

「…………君から聞いたことがあったんだったかな」

「誰にも話してない。それに、雄介はトマトが嫌いなんだ。もちろんトマトプリンも」

「……だから?」

「だから、あなたはきっと、忘れてしまったことを推理と呼んだんじゃないかな、雄介」


 ユータは悲しそうに微笑んだ。


「そうかもしれないね」




 ユータがやって来たのは雄介が死んだ日の夜だった。

 ちゃんと病院で、冷たくなった雄介を見てきたのに、部屋に戻れば雄介が私の椅子に座っていた。

 いつもみたいに。

 いつもみたいに、私の部屋に、雄介がいた。

 それなのに彼の体は透き通っていた。




 ――今日からここで探偵をしようと思う。君は助手だ。僕は記憶がなくてね、ユータとでも呼んでくれ。


 そう言って雄介はユータとして私の部屋に住み着いた。探偵として幽霊の悩みを解決して、私はそれを横で眺めているだけ。

 雄介、と呼びたくなるのを堪えて。




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