嘘の推理
ユータには何がわかっているのか、うんうんと一人で頷きながら、続ける。
「あなたが探している串田比奈子さんはここにいます」
ユータが私の方を指さしている。
人を指さしちゃいけませんって言われなかった?
当然ではあるが、この部屋にいるのは私と、ユータと、依頼人だけである。他にまた幽霊が増えているのではないかと探してみたが、いない。つまりユータが指さしたのは私なのだ。
「……探偵さん、僕が探しているのは小さな女の子ですよ。たぶん五、六歳くらいの……」
「そうですね、あなたが生きていた頃は」
何か言うべきかと悩んでいると、ユータの目が「合わせて」と訴えてくる。
「あなたは死んでから幽霊として目覚めるまでに時間がかかったのかもしれません。僕のように、記憶を無くして彷徨い続けていたのかもしれません。とにかく、あなたが死んでから十年近く経っているのは確かですね」
ユータなんて、私の名前も本当は知らないくせに。優しい彼に、信じられないくらい優しくて、馬鹿らしい嘘を吐く。
だから、合わせてあげよう。
「……そうです」
こんなデタラメすぎる話を、彼は信じるだろうか?
「あれは小学一年生の頃だったと思います。学校の帰りに、いつもと知らない道を歩きたくて、道に迷ってしまったことがありました。一人で泣いてたら、あなたみたいな笑顔の優しいお兄さんが、家まで送ってくれるって」
大丈夫だろうか。彼の話と齟齬は無いだろうか。
「お兄さんは少しだけ待っていてと言って、戻ってこなかったけど、その頃にはもう怖くなくなってました。しばらくしたら心配した幼なじみが探しに来てくれて、すぐに家に帰れました」
優しそうな顔が、今は困っている。
「あなたが『大丈夫だよ』と笑いかけてくれたなら、ちっとも怖くなかった」
彼は私たちの嘘に気づいただろうか。それとも信じてしまったのだろうか。
どちらでもいい。
ただ、依頼人は消えていった。
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