人探しの依頼
私の部屋にユータがやって来たのは一週間ほど前のことだった。いつも通り自室のドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、色の薄い男の子。
……いや、色じゃなくて……存在?
彼の向こうには窓が透けて見えた。
そして彼は呆然とする私に、自分が幽霊であることと、私の部屋を探偵事務所にしたいということを告げるのだった。
ちなみに生前の記憶は無いそうで、幽霊だからユータと名乗った。
そんなわけで、私の部屋はユータの探偵事務所となっている。
……何故だ。
なんとなく、追い出せなくて今に至るわけで。
私自身はというと彼の助手らしいのだが、特に仕事もない。探偵はもちろん依頼人の方も幽霊なのだからお茶を出すことも出来ないし。推理の手伝いをするわけでもない。
なので今日も漫画雑誌を捲りながら適当に二人の話を聞き流す。
「つまり、あなたは迷子の女の子を家まで送り届ける途中で亡くなってしまったんですね」
「……あんな小さな子が、無事に家まで帰ることが出来たのか…………誘拐されてしまったかもしれない」
どうやら依頼人は、迷子の女の子を家まで送る途中で亡くなってしまったらしい。ひったくりを見つけて追いかけて、信号無視で突っ込んできた車に跳ねられて。
すぐ戻るからここで待っていてと残してきた女の子が心配で、幽霊になってからもずっと探し続けているんだとか。
「僕があの時彼女を置いて行かなければ……ひったくり犯なんて見つけなければ……いえ、そもそも彼女を見つけたのが僕でなければ良かったのかもしれませんね」
かけるべき言葉も見つからず、雑誌に目線を向ける。
「一つ、確認したいことがあります」
何故ユータは私を助手に選んで、ここを探偵事務所にしたのだろう。
「あなたはいつからその女の子を探しているんですか」
「いつから、でしょうね。幽霊になってすぐあの子のことを思い出して…………随分長いこと探している気はします。時間の感覚が曖昧で。何週間か探し続けているような気はします」
「……そうですか」
迷子の子供なんて沢山いて。その全てを助けることなんて出来ないのに。見て見ぬふりする人間がほとんどなのに。優しすぎる彼はそんなことで心を痛め、死んでからも成仏できずに彷徨い続けているのか。
そんなに気にしなくても、その女の子だってきっと無事に家に帰れている。家族とか、友達とか、誰かが迎えに来てくれているに違いない。
「わかりました」
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