第4話 V.W.Pを知っていますか?

 先月、V.W.P(Virtual Witch Phenomenon)のライブに行ってきた。


 ライブへ行くことなどほとんどないので、久しぶりに大音量の音楽にさらされて気持ちよかった。ただライブが素晴らしかったと書いてもV.W.Pを知らない人にとっては「ふーん」となってしまうから、少し説明しようと思う。


 彼女たちは5人からなるグループで、デビュー順に「花譜(かふ)」「理芽(りめ)」「春猿火(はるさるひ)」「ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)」「幸祜(ここ)」からなる。いわゆるアバターを介して歌を歌うので、Vシンガーということになるだろう。

 今やVシンガーなんて珍しくもないし、たくさんいるがそれでも彼女たちが興味深い点を上げたいと思う。


 まず名前がよい。

「Virtual Witch Phenomenon」を直訳すると「仮想的魔女現象」となろうか。未来的なバーチャルと古めかしいウィッチのギャップもいいし、プロジェクトではなく現象というのも面白い。ちなみに魔女というのは、声が魔法でそれを使えるからということらしい。


 加えて、歌に統一性がある。

 ファーストアルバム『運命』の楽曲は「命に嫌われている」で有名になったカンザキイオリさんが全曲を担当していて、魔女や電脳、仮想や現実などのテーマを織り込んで作られている。ここまで明確に「仮想」や「現実」に注目したVシンガーグループは少ないと思う。


 例えば今回のライブでオープニングを飾った「共鳴」にはこんな歌詞がある。


 仮想世界がお好みなんだ?

 最近話題になってるしね

 現実もきっと悪くはないよ

 正直どっちも好きだよね


 我らがいま話題のV.W.P

 偽物だとか本物だとか

 実際のところどうでもいいじゃん?


 現実/仮想という二項対立は認めつつ、そのどちらでもいいと言ってのける。

 彼女たちのような存在にしてみれば、現実よりも仮想を優位に立たせてもいい気がするが、あえてその境界を曖昧にしているように思う。


 実はこの現実か仮想かという対立は最近のことではなく、遥か二千年以上前から問題になっている。例えばプラトンの『国家』における詩人追放論などが有名だ。彼は芸術はミーメーシス(模倣、再現)であるとして批判した。芸術は自然の模倣であると言われれば確かにそうかもしれないが、果たしてどうだろう?


 芸術には芸術固有の“権利”があるように思う。権利と言うとなんだか難しそうだが、例えばV.W.Pの「言霊」の始まりを考えると分かりやすい。


 No one can destroy this feeling.

 No one can destroy this feeling.

 We are here.


 彼女たちがそう言うのであればそれは権利上、認められるべきではないだろうか? 彼女たちの感覚を第三者が否定することはできないという意味で「権利上」なのである。彼女たちは続けてこう歌う。


 これは現実だ

 認めたくはないか?

 理想論を信じたくはないか?

 愛はここにあるって

 信じたくはないか?

 私たちは偽物だ


 私たちのように文章を書く人間は「嘘」を書いている。言葉というのは作り物である。現実の代理物でしかない。私が「私」と書いた瞬間に「私」は私から切り離され、読者にとっての筆者になる。しかし読者はそのことを知った上で、私=筆者というフィクションを信じる共犯者になるのだ。

 フィクションとは言語や貨幣と同様に多くの人に支持されることによって、現実をも改変する。いや、現実と呼ばれているものさえフィクションなのだ。なぜならその現実を捉えているものが言語だからだ。

 このように現実とフィクションは分かちがたく結びついている。どちらがどちらを映しているなどというのは短絡なのである。

 最後にV.W.Pの「宣戦」から引用しよう。


 人生全部フィクション

 伝う涙すら全部フィクション

 揺れるフードも踊る髪の毛も

 何もかも全部フィクション


 でもさ

 叫びたいんだよ

 この感情だけは分かってる


 今己を証明する言葉を

「私たちは魔女だ」

「これは魔法だ」


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