第3話 村上春樹さんのTシャツ
先日、ふとユニクロの前を通ったら気になる特集を見つけてしまった。
ポップには「PEACE FOR ALL」と書いてあった(改めて今は戦時中なのだと思ったわけだがそれは今置いておこう)。そこにあるシャツを買うと利益の全額を寄付すると書いてある。どんな人が参加しているのだろうと気になって見てみた。
現代アーティストのジュリアン・オピーや映画館監督のヴィム・ヴェンダースなんかが名を連ねている。山中伸弥先生のシャツもある。そのなかに村上春樹さんの名前を見つけてしまった。
村上春樹さんの作品自体は、例えば『風の歌を聴け』などはUTにもなっていたけど、あれはどちらかと言えば「佐々木マキ」さんのイラストであって、村上春樹さんの作品という感じがしなかった。
けれど今回のシャツのイラストは下手な“ノンタン”みたいな猫のイラストで下に「save humans, save cats」と書かれているのだ。ミーハーなので村上さんの手描きだとしたら欲しい! と思ったが結局その場で真偽は不明だった。
帰りの電車の中でなんとなく考えていた。私が最初に読んだのは『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』だった。ちょうど思春期〜青年期にかけて村上春樹さんの著作を読んだので、社会に無関心な主人公にどこか憧れさえした(誰にでも政治的無関心さがかっこいいと思う時期がある)。
村上さんは『アンダーグラウンド』や『神の子はみな踊る』を書いたあとで自身の態度について「デタッチメント(かかわりのなさ)」から「コミットメント(かかわり)」に変わっていったと語っている。エルサレム賞を受賞した際のスピーチなどは非常に言葉を選んでいたが政治的だったし、神宮外苑の再開発には「強く反対している」と語ったとされる。
今回のTシャツにはこうコメントを残している。「何かの役に立てれば(たいして役にはたてないだろうけど、それでも)、と思って。人も猫も同じように平和に生きていける世界であるといいと思う。」
未だデタッチメント的だとも言えるし、平和のような大きなものにはこれくらいしか言いようがなく弁えているともとれる。でも、なぜ猫であって犬ではないのだろう。犬派の私としては大いに疑問である。
どうも作家業界(?)を見ていると猫がひいきされているように思う。村上さんは言うまでもなく、夏目漱石や谷崎潤一郎、アーネスト・ヘミングウェイなんかも猫を飼っている。ライトノベル作家の谷川流さんなんかも猫が好きらしい。
猫というのは、自立心があり、勝手気ままなイメージがあって、それが作家に似ているのかもしれない。村上さんはエッセイのなかで「猫山さんは、専門技能を持った個人主義者」だと書いてらっしゃるくらいだ。
皆さんが言いたいことは分かりますよ。けれど犬を飼っている身からすると、犬は傷心したときに慰めてくれる。いつもは遊ぶことしか考えていなさそうな犬が「どうしたの?」と寄り添ってくれる姿だけでも涙が出るほど嬉しい。
小説を書くことは本質的には孤独な作業だと思う。この孤独にこそ意味があると思うので、悪く言うつもりはないけれど、やはり寂しい時がある。
そんなときには主人に無関心な猫よりも、犬のほうがいいんじゃないかなと思ったりする。
とはいえ、save humans, save cats and dogsと書くとなんだか動物愛護団体のキャッチフレーズのようになってしまうからしかたないのかもしれない。
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