第2話 コンビニ

 帰省した折、深夜まで執筆をしていたらタバコが切れたので近くのコンビニに買いに行った。外はすっかり寒くなっていて息が白くなる。店の前でたむろっている若者たちを横目に、うっすらと暖房の効いた店内に入ると70前後の男性店長が「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。


 モンスターエナジーの500ml缶とハリボーのグミ(ゴールドベア)を持ってレジに並び、アメスピを頼む。ここの店長さんとは小学生以来の付き合いになる。付き合いと言っても買い物をするとき少し話す程度だ。

 IDで支払いを終えた後、なんとなく「おでんはまだやらないのですか?」と聞いてみた。店長さんはほとんど白髪になった頭を少し恥ずかしそうにかきながら「いや〜厳しくて」と返してくれた。

 疲れで赤く腫れた目と、いかにも恥ずかしそうな仕草が印象的だった。


 そう言われればコンビニのおでんを見かけなくなったと思い少し調べてみた。するとコロナ禍により顧客が衛生面を気にするようになり売り上げが減少した結果、今は販売するかどうかを店舗判断に委ねているらしい。

 例えばファミリーマートでは2019年には約1万6000店舗で販売していたが、選択制にした20年からは約4800店舗にとどまったとビジネス系メディアに書いてあった。代わりにパウチに入ったおでんが売られているようである。

 これも時代、時の流れなのだろうか。


 スガシカオの楽曲に「コンビニ」という歌がある。アコースティックギターと簡単なパーカッションで構成されているシンプルなバラード。


おととい気づいたんだ

なんか違和感がして

灯りがついていない

閉じてるパーキング

〔…〕

彼女に電話した 何かの用事で

“あ……そうなの?”っていう返事

まぁそんなもんでしょう

〔…〕

街のはずれ

灯りがひとつ消えました

店のおじさんは

夜逃げしたりしたのかな……


 スガシカオは、こういう現代人の郷愁のようなものを描くのがうまい。「街がひとつ年老いた気がして」彼女に話しても共感されない。一般的には「まぁそんなもん」なのかもしれない。


 実家近くのコンビニがなんの知らせもなくおでんを止めてしまったように、いつかなんの知らせもなく閉店してしまうかもしれない。開店の時は小ぎれいなスタンド花も飾られて、多くの人から歓迎されたコンビニ。閉店時にはなにもなかったかのように誰にも見送られず、ドアに閉店と書かれたA4の紙が貼り付けられるのが目に浮かぶ。


 ちゃちなスチロール製の容器に入ったコンビニのおでんが懐かしい。一人寂しい夜にあの温かさがどれだけ沁みたことか。容器のふちにピリッと辛いからしを付けて食べる大根のおいしさ。つゆを少し残しておいて、ぱさぱさとした卵と一緒に食べたこと。

 なくなってしまったもの、過ぎ去っていくものに思いを馳せた。


 2023/12/30

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