第2話 自己紹介
ここなら誰にも見られないな。
意識がなく動かない人魚を岩陰まで運び、着ていたコートを掛ける。人魚の上半身がほとんど裸だったからだ。
なんの障壁もなく晒されたそのたわわな胸は男子高校生にとって致命的に刺激が強い。
起こした方がいい……か?
できる限り目線が下に行かないようにしながら肩を揺すった。しかし、返ってくるのは微かな吐息だけ。
これ……もしかして寝てるだけなのか?
俺が呆けていると人魚が目を覚ました。朧気な視線がこちらに向く。
「人……間…………?」
段々とピントがあってきたようで寝ぼけた様子から一転し、驚いた様子でこちらを見る。見れば、体は震えているし動きも鈍い。というか体がどんどん乾燥していってないか?
「み……みず」
どうやら人魚は常に水の中に居ないと乾燥してしまうらしい。
「す、すまん!ちょっと待ってろ。嫌かもしれんが、許せ。」
さっきは意識がなかったから引きづって岩陰まで運んだが、意識があるのにそれをするのは少し罪悪感がある。少し肌が触れ合ってしまうが人魚を背負って水辺まで運んだ。
人魚の体をしっかり浸るように海水につけると見るだけでわかるほど肌が潤っていき、生気が戻っていくのが分かる。
「大丈夫か?俺が勝手に水場から移動させたからだよな。……その、話せるか?」
心の中は人魚という人類にとって未知の存在と話してみたいという気持ちが先行していた。
「きみ、かっこいいね」
「──────え?」
俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。かっこいい?俺が?
人魚とはいえこんなに可愛い子にかっこいいと言われて少し、いやかなりドキリとした。
今までの人生で1度も女子にかっこいいだなんて言われたことがなかったからでもある。
「君、童貞でしょ」
「……なぜそう思う?」
「反応がわかり易すぎるもん。」
1回ぶん殴ろうかと思ったが上目遣いで相殺された。顔面偏差値とは偉大なものである。これがもしクラスの女子にされていたら迷いなく殴っていただろう。
とゆうかなぜ初対面のやつに童貞認定されなきゃならんのだ。図星ではあるが。
人魚は何故かケラケラと笑っているが俺はたった少し問答しただけで帰りたくなっていた。
見た目から尾びれがコスプレでないのはわかるし本物の人魚なのは間違いないのだが、なぜこんなところにいるとか考え出したらキリがない。
関わったら絶対面倒なことになるのでさっさと帰りたい。
どうやって逃げようかなと考えていたところで、人魚はよく分からない提案をしてきた。
「君、面白いね。良かったらさ、私と結婚しない?というか結婚しよ!」
あまりにも清々しいプロポーズだった。和玻人生初の告白(被)である。
「いや無理だわ」
ちなみに即答である。
「な、なんで?だって、私こんなに可愛いよ?おっぱいも大きいし、男の子好みだと思うんだけど」
目にうっすらと涙を浮かべながらこちらを見つめる人魚。泣いている姿も絵になっていると考えてしまうのは、失礼だろうか。可哀想は可愛いのである。
「なんでと言われても俺、あんたのこと何も知らないし。まだ16歳だから結婚できないし。それに、スタイルとかは、好きになる要因にはなるし正直好き…///だけど……、それだけで結婚には行き着かないっていうか。あとは童貞って言われてちょっとウザイと思った」
「結構ハッキリ言うんだね。でも意見を言い合えるのは結婚後でとても大切な事だと思うよ」
違う、そうじゃない。
「……分かった!つまり君に私のことを知ってもらえれば結婚してくれるんだよね!」
「いやしねぇよ!?勝手に話進めんな!」
「私の名前はレミウル・ラーティフル。レミーって呼んで。」
聞いてないし……。
「君の名前はなんて言うの?結婚相手の名前も知らないのは私も不安だしね。」
さてはこの女とんでもなく自己中だな?
「渚乃波和玻だ。結婚はしないからな」
もしかしたら俺はこの時既にこの女に毒されていたのかもしれない。
「ねぇねぇ、和玻くん!和玻くんの家って今お義母さんお義父さんはいらっしゃるの?」
なんか漢字が違う気がするんだが……。
「俺は一人暮らしだけど…それがどうしたんだよ?」
俺はこの時自分の発言を後悔した。自分は鈍感なんじゃないかと自覚した瞬間である。
「じゃあさ、和玻くんの家に泊まらせて!」
「……は?」
人魚を助けたら家に住み着かれました 魔王軍の三下 @maounosansita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。人魚を助けたら家に住み着かれましたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます