死神と願いを叶えるクリスマス
十二時より少し前になるまで幽霊の相手をしてから、俺たちは駅に向かった。
俺はこれから、かなり恥ずかしいことをする。少なくなってきたが、クリスマスイブだからか人がまだそこそこ歩いているのが残念だ。
ナノハは対してウキウキしている。
俺たちは、男の子から見えないよう気をつけながら様子をうかがっていた。男の子はクリスマスツリーの前で静かに待っている。
クリスマスツリーは細身だが見上げるほど高く、上から下までイルミネーションに飾られ、赤や黄、青と様々な色に点灯する度に、薄く積もった雪を華やかに色づける。
「なかなか似合ってますよ。イケてます」
俺のことを見て、ナノハは褒めてきた。
「イケてねぇよ、恥ずかしいわ」
「そ、そうなんですか? すみません、私のせいで」
「それは違うな」
俺は四角い小さな箱を持ち直した。イラストでよく見るような、リボンで結ばれた典型的なプレゼント箱。片方の手にはちゃんと白い袋も持っている。
「お前に頼まれてなくても、俺はきっと同じことをした」
「それって、あの子の願いを叶えてあげたいってことです?」
「そうだ」
「それって」
「いいから、そろそろ頼む」
ナノハはしぶしぶ頷き、物陰から出て男の子の方に駆けた。
「ね、私のこと覚えてる?」
ナノハが近づくと、男の子は大きく頷いた。
「うん、さっきお兄さんといっしょにいたよ」
「お兄さん、今サンタさん呼んでくるって」
「ほんとうに?」
ナノハは打ち合わせ通り、男の子の横に立つ。彼女にいてもらうのは、これからすることを視えない相手に対して行っていると普通の人間に思われたらヤバいからだ。確実に通報される(これも経験済み)。
俺は男の子の方に姿を現した。
「あ、サンタさんだ!」
男の子が声をあげるのと同じく、周りの普通の人間もわあ、とこっちを見る。
俺は今サンタの服を着ている。百均でさっき買ってきたばかりだ。口ひげつき。恥ずかしさで死にたい。けど、やらねばならない。
「メリークリスマス」
言いながら、俺はナノハにプレゼントを渡した。周りから「プロポーズ?」と声がした。違います、誰がこんな奴にプロポーズするか。黙ってればそこそこ可愛いけどな。
男の子は、プレゼントをじっと見ている。イルミネーションが映り込んだその目は、本当に輝いているかのようだ。
「ナノハ」
「はい」
ナノハは男の子に「開けるね」と確認してから開け始めたが、なかなか開けれない。本当に不器用だな。
ようやく開いた、と思ったら、ナノハはなんと手をすべらせて地面に落とした。周りからもそれなりにどよめく声が聞こえる。どうやらそこそこの人間に見られているようだが、俺に周りを確かめる勇気はない。
一瞬空気が固まったが、男の子は、残念がることはなかった。むしろ声を上げて笑ってくれた。
「はは、お姉ちゃんはあわてんぼうだね。僕、そういうサンタさんが出てくるうた知ってるよ!」
男の子は中身が開いた箱を覗き込む。その中には消防車のミニカーが入っている。無事で良かった。これも、さっきおもちゃ屋で用意した。
「消防車だ! ありがとう、サンタさん!」
「喜んでくれたなら良かったよ」
自分でもこういうところはすごいと思うんだが、声を枯れさせながら俺は答えた。悲しいかな、やるからには手を抜けないのが俺だ。
嬉しさのあまりか、男の子はジングルベルを歌い始めた。ところどころ歌詞が違うが、本当に楽しそうに歌っている。それが終わると、さっき言っていたサンタの出てくる童謡を歌い出す。
そうやって歌いながら笑顔のままで、男の子は成仏していった。
俺はそれを確かに見届けると、プレゼントを拾って、ナノハの手を掴んだ。
「え、もう行くんですか」
「恥ずかしくてさっきから死にそうなんだよ!」
「え、やっぱり、死んでくれるんですか?」
「違うわ、馬鹿!」
俺はそのまま全力でその場から逃げた。
ちなみに後日ネットを調べたところ、この一部始終を上げている奴がいた。最悪だ。ネットの海に沈むのを待つしかない。俺の黒歴史がまた一つ増えた。
でも、かけがえのない笑顔も一つ増えたから後悔はしていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます