婚約破棄の理由は必要ですか?

レンド・サーティスは騎士団長の長男として真っ当な人生を歩んできたと自負している

父親から騎士道として力の使い方を学び見る見るうちに頭角を現した彼は確実に剣の才能がありそれを努力でものにしていった

婚約者であるマラリア・ルイズに対しても婚約が成立した8歳の頃から交流を深めていき激しく燃えるような恋はしていないが幼少期から培っていた信頼関係がそこにはあった

学園に入ってからもレンドは努力は欠かさず行い、学科の成績は普通より低いながらも剣術大会優勝、時期王子の信頼を会得。その足りないところを補うように婚約者のマラリアは刺繍、ダンスと学科が優秀で学園一の淑女と名高い評価を得て、二人はお似合いのカップルとして有名だった



だからこそ、平民であるラーテルがミリィ含む貴族たちに虐められていると聞いたときは持ち前の騎士道と正義感で憤りを覚え。彼女を何があっても助けようと心に決めた。

ラーテルが泣くところを見るのは嫌だった

それが真に正しいことだと信じていた

それこそが奢りだともわからなかった






「……マラリア、それは」

「あら、サーティス様。婚約者でもないのに名前で呼ばないでいただけますか?」

「すまない、いや。それよりも…」


「一体その髪はどうしたんだ」



あの舞踏会があった次の日にサーティス家に婚約破棄の書状が届いた。元々サーティス家よりルイズ家の方が家柄も上であることに踏まえ、ラーテルを気にするあまり婚約者であるマラリアのエスコートを忘れていたことを証拠としてあげられた正式な破棄書類は父親の手によって承認されお似合いとまで言われた二人の関係は終止符が打たれる。

だが、彼女とは同士のような関係であり友人だと思っていたレンドがエスコートをできなかった謝罪だけでもしたいと何度も書状を送りようやく取り付けたお茶会の日が本日だ。通いなれたルイズ家までの道を馬車で向かい、いつも通され茶会をしていた客室を通り越した庭園のベンチ。



そこに元婚約者のマラリアがいた

長かった金髪をバッサリと肩まで切った彼女はドレスではなく騎士服を身に着けており、傍らには剣を携え汗をタオルで拭きながらもしっかりとした眼差しでレンドを見つめる



「どうした、と言われましても。切ったのですよ。訓練に邪魔ですから」

「訓練に邪魔って…その剣をまさか君が扱うというのか?」

「えぇ。貴方様には遠く及ばないかもしれませんが下っ端の騎士様たちなら倒せるくらいには強くなりましたの」



淑女のやることではない

純粋にレンドはそう思い口から出るのを堪えた。彼の知っているマラリアは芯がしっかりとしていた節はあったがそれはあくまでも淑女の範囲内であり、何時だってレンドのことを立てて一歩後ろで応援して守られていた。屋敷でお茶会するときも、学園で授業を受けている時も、この前の舞踏会だって彼女はしっかりとした服装と髪型をしてレンド以外の男性と関わることもしなかった淑女であった。だが、今の姿は明らかにかけ離れている

美しく背中まであった髪の毛は乱れているとまではいかないが訓練終わりで汗に塗れ、きちんと揃っていた足元はズボンに身を包み組まれている。そして彼女は何時ものような両口角をあげた笑みではなくどこか小ばかにしたように口角を片方上げている



「私が何故淑女足らんとしていたのかわかりますか?」

「え?」

「貴方様が淑女を求めていたからですよ。幼いころから見て居たらわかります。貴方様は守られて頼ってくれる女性がお好きでしょう?だから、私は努力いたしましたの」



彼女は歌うように言葉を乗せる

例えば、お茶会の小さな相談事を頼った。

例えば、街へ出かけるときに動きにくいドレスをわざと着ていった

例えば、学園で淑女たらんと見せかけた



「でも、痛感致しましたわ。貴方はあのような方が好みでしたのね。明るく可愛らしいあのお方。私は守られようと、頼ろうと頑張ることはできてもあのような可愛らしい笑顔を浮かべることはできません」

「っ、ラーテルは…」

「誰も名前を言ってはおりませんよ。言ったでしょう?私は幼いころから貴方を見ていました。だから、わかっております」


「貴方は彼女を本当に愛おしく思っているのでしょう?」


「……すまない」

「謝らなくても結構ですわ。私貴方様のおかげでこうして好きな道を選べますもの」



立ち上がった少女は明るく笑う

久しぶりに横に並んだ彼女から感じる覇気に剣を持つものとして身体が震える。そして、ようやく彼女をしっかりと見つめることができた気がした

いや、初めて顔を見た気がした



「貴方は昔から私のことを見ているようで見ていなかったわね。婚約者だから一方的に信頼を寄せてくれていたようだけど私のことを質問したことなんか一度もないの覚えてる?私の将来の夢を知らなかったでしょう。私ね、リティ様の騎士になるの。女騎士制度を隣国は作ってくれるのよ」

「……君は、騎士になりたかったのか」

「そうよ。だから、ありがとう」


「私はずっと婚約破棄の理由を捜していたの」



少女は楽しそうに笑い剣を下げる

少年は苦笑いをして練習用の剣を持ち上げた

これまでのことを水に流すことはできないが破壊され切った絆を結ぶことはできる

二人の剣はまじりあった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄されたのですがそもそも婚約者じゃありません @hamakinosukima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ