第3話:この世界
「やったぞ……」
「ほ、本当に、出来たのか⁉︎」
「間違いない!これで、世界は……!」
「二人だ、勇者様と付き人様だ……!」
私達を囲む様にしている、豪奢な服を着た者達が口々になにやら言っている。先に私達にこの世界の説明をするのがテンプレってもんじゃないのか。口々に勇者、付き人、とかなんとか言っているが……まぁいい。ひとまず私を意図的に連れて来た大和に小声で文句を言う。
「大和。私まで巻き込んで、どういうつもり。」
「何も言わずに連れてきた割に、落ち着いてるようだねぇ」
「能天気にしている場合じゃないでしょ。さっさと説明してよ。」
「おぉ、怖や怖や。そんなに睨まずとも、大丈夫。後で時間が空き次第説明する。」
強めに足を踏んでも柔和な顔を崩さず、一切動じない。しかしここまで連れてきておいて、一体なにが大丈夫というのか。つくづく呑気なヤツだな、そう呆れ気味に思っていると、
「勇者様、そしてお連れ様。ようこそおいでくださいました。色々と聞きたいこともございますでしょう。ですが、まずはこの国を統べる、我が父に一度、会ってくださいませんか?」
と、まるで鈴を転がすかのような、それでいて耳障りでない優しげな声とともに、声の主が私達二人の元にゆっくりと歩いてくる。装いから見るに、周りの者よりも高い身分。それから裕福なのだろう。
声の主は、「私の事は、セレン、とお呼び下さい。」と名乗ったので、それに応えるように私たちも名を告げる。
「俺、大和です。で、こっちは……」
「星奈、です。」
私の方を示した大和に合わせて、敬語で挨拶をしておく。まぁ、異世界の者なので多少の無礼は許して欲しいと思うが、彼女は高貴な身分だと思うので、一応だ。
どうやらこの世界の説明と呼ばれた理由についてを聞くついでに、セレンさんの父親に会うということらしい。
「失礼致します。お父様。勇者様と付き人様がおいでになられました。」
セレンさんがそういうと、成人男性が数人いなければ開けられないような雰囲気を漂わせる、豪奢で重厚な両開きのドアが、ゴゴゴ……と音を立て、ひとりでにゆっくりと開いていく。つい先程私達が召喚された大広間の床に描かれていた、大きな魔法陣のような物といい、この世界には魔法が一般的に存在するようだ。そしてこのドアが開いたのも魔法か。
その先に見えたのは、まさに想像していたような、豪華なつくりの謁見間だった。正面にある数段の階段の上にある派手な椅子には、厳つい顔をした、いかにも厳格といったような推定五十歳ほどの人物が座っていた。
「よくぞおいで下さりました、勇者様、付き人様。私は、セレンの父であり、この、『聖シャルクリア国』三十八代目国王の、ルベルク・シャルクリア・へレグ・ルアダンデ。お名前は、娘より【伝達】で伺っています。まずは、この世界について説明する前に、勇者様と付き人様の、適正を測りましょう。適正についても後ほど説明します。」
なるほど、セレンさんはお姫様だったんだな。そりゃ豪華な服を着るってもんだ。
まぁそれはさておき。落ち着いた口調で彼──名称が長くややこしいので、少々簡略化させていただこう──シャルクリア国王は、この世界とこの国、それから現状について語り出した。
国王曰く、この世界には魔法があると。お見せしましょう、とセレンさんが指先から小さな炎を出して見せた。
勇者の世界には代々魔法がないと伝わっているが、呼ばれた人間には魔法を使う素質があるらしい。人間だけでなく、獣人やエルフなんてのも居るらしく、結構な種族が共存しているのだとか。
それからこの国、聖シャルクリア国は他種族国家で、農業から工業まで手広くやっているらしく、周辺国と比べると発展していること。見せてもらった地図では、周囲の国と比べて領土も結構な広さがあることが分かった。
しかし最近どうやら、魔物の動きが活発で、よく人が襲われている。冒険者という人達が討伐しているが、間に合っていない。そして更にその魔物より強く知性のある、魔族とやらも村を襲ったりしているとのこと。周期的にも魔王が復活すると噂されていて、まぁ魔族達の国をこっそり偵察で覗いてみたところ、事実復活しようとしているわけで。要するに、私達は魔王討伐のために呼ばれたらしい。なんてテンプレな。日本にも沢山あったぞ、そういう題材の書物が。
ちなみに現在、日本に帰る方法は無いらしい。これもまぁ予測していた事なので、大した驚きもない。「強制的にこちらの世界に呼んでおきながら、大変申し訳ない」と言っていた国王は私達のあっさりした様子に驚いていたが、ホッとしたようだ。これが他の人間なら、もっと抵抗していることだろう。
代々召喚されていた勇者は、基本的には一人だけ。けれども、たまに数人召喚されることもあるらしい。そういう場合は、『ステータス』という、生れつき皆が持つ個人情報のようなものを見てみると、一人だけ勇者という職業で、あとは他の名称が書いてあるらしい。勇者でない召喚者は付き人、と呼ばれる。とはいえ、代々やって来た付き人は皆かなりステータスが高かったようだ。
ちなみにステータスは、魔法を使う素質がなくても見れるもので、やり方は簡単。一言『ステータス、オープン』と唱えるだけ。
「───ということですので、お二方にはステータスを見て頂けませんでしょうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます