5thゲーム
「レート、四戦目にして1436……」
卓也はかなり絶望していた。
残り六戦のうち、どれか二回勝つ必要があると考えると、じゃんけんの確率としては低くないが、生死をわけると考えると絶望的だ。
「じゃんけん、しますか」
それは、卓也とほとんど変わらない装いの青年だった。
その内情も卓也とほとんど変わらず、必死に生きるわけでもなく死にたいと願うわけでもない、良くも悪くもなんのストーリーもない人間だ。
青年は、勝ちすぎてしまった。
自分の所為で他の誰かが死ぬことが怖くてレートをギブしようとしたが、たまたま運が良く連勝を重ねてしまった。
自分が死ぬ可能性は限りなく低くなったため、他人にレートを分け与えたいが、下手な取引を持ち掛けても信用されるかわからない。だから、なにも行動できずにいた。
「しましょうか」
彼らは言葉なく拳を構えた。
「これなら、100万目指せるかも……!」
当然、卓也が100万円を目指すことは出来ないので、呟いたのは青年だった。
青年は卓也に勝利してレートが1600を超えた。そして、残り対戦回数も十分に残っている。
「ひゃっひゃっひゃ……!」
青年は高らかな笑い声をあげて、卓也はそれが不気味に感じられてその場を去った。
青年は卓也の見る限りだと卓也と大して変わらない性格のように見える。
それに、じゃんけんをする前はあんな態度ではなかった。
もしかしたら、なにかのきっかけで卓也もああなってしまう可能性があるのかもしれない。
想像した卓也は少し怖くなった。
そして、そんな変化をもたらす一番の原因となり得るのは、下がり続けるレートだった。
先ほどの敗北で、レートはまだ五戦目ながら1436から1427に低下し、死を目前にしてしまった卓也が、平常心を保てるという証拠はどこにもない。
卓也は先を見越して少し不安になったが、気を取り直してじゃんけんをするしか道はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます