2ndゲーム

 先ほどの男と同じように思い詰めた表情の女子高生が、そこにはいた。


「お兄さん。私、家が貧乏で100万円得る必要があるの。グーを出してくれない?」


 少し信じがたかったが、家が貧乏であるという言葉通り彼女の制服はぼろぼろであったし、なにより彼女の思い詰めた表情が本物に思えた。


 卓也はまだ負けられる回数に余裕もあり、その言葉を受け入れた。


 卓也がグーを出すと、彼女はパーを出し、即座にレートが計算される。


 卓也はいくつかのインターネットサイトでレートの計算式が某ゲームと同じで、


勝利時に加算される値 = 16 +(相手のレート - 自分のレート)× 0.04

敗北時に減算される値 = 16 +(自分のレート - 相手のレート)× 0.04


 であるという情報を知っていた。


 そのことと卓也のレートが1483から1470に減少したことから、彼女のレートがじゃんけんを開始する直前で1534以上1558以下であったことを、卓也は認識した。


 ここから勝利すると、レートは1560程度になるだろう、と思った卓也は、彼女が100万円を得ることを願った。


 ――実際のところ、女子高生の家は全く貧乏ではなく、比較的裕福だ。


 しかし、彼女はそれで満足しなかった。満足できなかった。


 彼女は、卓也からレートを貰ったことにより三戦目にしてレート1547だったのが1560となった。


 それは、ここ周辺ではほぼ最高レートで、残り七戦もあるうちでレート1650を目指すのは不可能ではなかった。


「そこの女子高生の人、じゃんけんやんね?」


 浮足立つ彼女に話しかけたのは、少し悪そうながらも良心は持ち合わせていそうな様態の青年だった。


 彼女は普段通り、自分が貧乏な家の生まれだと騙り、グーを出してもらうよう要求した。


 そして普段通り、彼女はパーを出す。


 青年が出した手は、チョキだった。


「ちょっと……! グー出すって言ったじゃん!」

「俺だって死にたくないからなあ……。まあこれで俺も、そう簡単には死なんだろうな」

「騙された……! 大人しく引っ掛かりなさいよ、クズ!」

「引っ掛かる?」

「ウチは貧乏なんかじゃないわよ。なに? 悪い?」


 彼女は開き直って言った。


「ははっ、面白い奴だ。さっきレート譲ってた男にも教えてやろうかな」

「勝手にしなさい……! あんたのことなんて絶対許さないから」


 彼女のレートは1560だったのが、21低下して1539。


 まだ十分高いことに変わりはなかったが、100万円を獲得するまでの道は遠のいたし、なにより裏切られたことで腹が立ってムキになって戦うようになり――


 彼女の結果がわかるのは、またあとの話だ。

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