第48話



「……契約結婚のように伝えるのは悪手だったな」



 残されたルーカスが呆れたようにダミアンに声を掛ける。眉間に皺を寄せ項垂れたダミアンは口を開こうとはしなかった。気まずい空気が流れる中、セリーヌが足早に戻って来た。



「セリーヌ。ジェイミーは?」



「馬車に押し込めてきました。私と居たら、どうしたって泣けないでしょう?」



「泣……っ」



 勢いよく頭を上げたダミアンへセリーヌは苦笑いを見せた。



「ダミアン様も、ジェイミーも、素直じゃありませんね」



 言葉を探すダミアンにセリーヌは優しく微笑む。



「ダミアン様。ジェイミーは素直じゃありません。ですが、情に厚く優しい性質でもあります」


 ダミアン様の方がよくご存じですね、と笑うセリーヌにダミアンは小さく頷いた。第一王子にも侯爵令息にも平気で噛みつく彼女が、困っている同級生に手を差し伸べている場面を見たのは一度や二度ではない。



 ジェイミーと初めてきちんと会話したあの時、彼女は誰にでも優しいルーカスのせいで令嬢たちが教室に押し寄せてきていることをルーカスとダミアンへ一喝した。だが、それは下位貴族や平民の生徒を守るためでもあった。ルーカスに纏わりついていた令嬢たちの殆どは高位貴族であり、彼女たちが押し寄せることで他の生徒たちは要らぬ気を遣わざるを得ない状況になっていた。そのためジェイミーはルーカスとダミアンを叱責したのだ。



 真面目で正義感の強い彼女を想うようになるまでそう時間は掛からなかった。



「そんなジェイミーがダミアン様のような侯爵令息にアプローチされたらどう想うでしょうか」



「どう、って……」



「貴方の真意を図りかねる気持ちが半分。もう半分は……」



「……」



「自分のような爵位の低い者が貴方の妻になってしまえば、貴方に要らない負担を与える。高位貴族の令嬢が妻になれば、しなくていいような苦労をさせる。貴方の評価も下がってしまうだろう。……それよりは」



「……身を引くと……、そういうことですか」



 セリーヌに詰め寄るように尋ねるダミアンを、ルーカスが振り払った。



「それは本人に聞いて来るんだ。僕たちはお茶の続きをしておくから」



 ダミアンはハッとし、ルーカスとセリーヌに頭を下げるとすぐ走り出した。やれやれと呆れた顔で二人はダミアンの背中を見送った。



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