第47話
ステファンを見送った後、ルーカスはセリーヌをお茶に誘った。中庭の東屋に二人が着くとすぐに紅茶といくつかのスイーツが並べられた。婚姻の準備に忙しくしている二人の束の間の時間を、ジェイミーは穏やかな気持ちで見守っていた……この男が声を掛けてくるまでは。
「ジェイミー、セリーヌ様はもうすぐこちらで暮らし始める。君はどうするつもりだ?」
一緒にルーカスとセリーヌを見守っているダミアンの言葉を受けてジェイミーは彼を鋭く睨み付けた。この男はジェイミーの気持ちを分かってて聞いているのだ。
ジェイミーだってセリーヌといたい。セリーヌがルーカスと婚姻し王城で暮らし始めてからも彼女を支えていけたらどんなに良いだろう。だが、王族の侍女は伯爵位以上の家の者でなければ認められない。男爵令嬢であるジェイミーが公爵家の侍女をしていることだって本来は有り得ないようなことだ。彼女の並々ならぬ努力があったから、今セリーヌと共に過ごせている。
ダミアンはそんなジェイミーの気持ちを分かった上でそう聞いているのが堪らなく腹が立つ。飄々とした笑顔でダミアンは続けた。
「俺と結婚したら良い」
「……」
「そしたら君は未来の侯爵夫人だ。堂々とセリーヌ様の侍女になれる。ああ、侯爵家の公務は気にしなくたって良い。何なら契約書を作成したって……」
「しません」
「え」
「そんな結婚しません、絶対に」
ダミアンは目を見開き彼女を見つめた。目の前の彼女はいつものようにダミアンを叱りつけるジェイミーではなかった。酷く冷たい声で拒否した彼女の瞳にダミアンは映っていない。
気が付くとルーカスとセリーヌがすぐ傍に来ていた。
「今日はお開きよ。ジェイミー、帰りましょう」
「はい」
セリーヌはダミアンからジェイミーを隠すように立つとすぐに踵を返した。馬車まで向かう間、普通なら饒舌なセリーヌも無言のまま足を動かしていた。そうして馬車の前まで辿り着くと急に振り返った。
「ジェイミー。ルーカス様にお伝えし忘れていたことがあるの」
「それならお伝えしてきます」
「いいの。私が伝えたいことだから行ってくるわ」
「でしたら一緒に」
「ジェイミーは馬車の中で待っていて頂戴。今日は長い時間立たせてしまっていたから少し休んでほしいの」
「そんなこと……」
セリーヌは優しく笑って首を振った。仕事人間のジェイミーにとってそんなことは受け入れられない。だが主のセリーヌが休めと言えば休むしかない。セリーヌの背中をぼんやりと見送り馬車に乗り込んだ。腰掛けた瞬間、堪えていた涙がぼたぼたと零れ落ち、なかなか止まってはくれなかった。
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